初恋シンドローム
「騙されないでよ? ……単純なんだから」
「わっ」
くしゃりとかき混ぜるように髪を撫でられる。
一見ぶっきらぼうなのに、その手つきはちぐはぐなほど優しかった。
「も、もう。せっかく綺麗に結んだのに……」
「いいよ、ほどけば。外してあげる」
止める間もなく、するりとバレッタが髪を滑る。
ヘアゴムも一緒にほどけて、こぼれ落ちた髪がふわりと広がった。
「ゆ、悠真……?」
「ねぇ、何してんの? それ返して」
さすがの大和くんも戸惑いをあらわにリボンを取り返そうとしたけれど、悠真はそれを躱すように避けた。
「これって、おまえの意思表示で……宣戦布告?」
もったいつけるようにリボンを眺めてから、鋭く大和くんを睨めつける。
当の彼は微塵も怯むことなく、ゆったりと笑みを返していた。
「そう思うってことは、きみも同じなんだ」
挑発でもするかのような反応にも、悠真は表情を変えなかった。
黙って手元を再び見下ろす。
「……ちがう」
ややあってから彼は答えた。
「俺はおまえとはちがうから」
大和くんに対して言いきると、今度はわたしに向き直る。
リボンとヘアゴムを仰向けたてのひらにそっと載せられる。
目の前を横切った悠真は、視線を落としたまま歩いていってしまう。
色々と気にかかったものの、口をつぐんだまま見送るほかなかった。
中庭へ出たわたしと大和くんは、花壇のふちに腰かけていた。
結び直してあげる、と言った彼が、ほどかれた髪に丁寧に触れる。
先ほどのことを思い出し、わたしは眉を下げた。
「大和くんがせっかく選んでくれたものなのに……悠真がごめんね」
「どうして風ちゃんが謝るの」
小さく笑った大和くんの声が背中越しに聞こえる。
その手が髪をすくって撫でるたび、くすぐったいようなふわふわとした気分になった。
「付き合ってるわけでもないでしょ」
「それはそうだけど……」
頷くついでについうつむくと、わずかな沈黙が落ちる。
彼とふたりだということが唐突に意識され、何となくどきどきしてきた。
速い心音を自覚する。
やわい風が吹いても、一度帯びた熱は一向に冷めない。
花が揺れ、香りが漂い、どこか夢心地でもあった。
「……でも、興味あるなぁ」
おもむろに大和くんが口を開く。
「え?」
「何がきっかけで越智と親しくなったの? 俺がいた頃はそんなことなかったのに」