初恋シンドローム
ふ、と息をこぼすように大和くんが笑う。
「……かわいい。風ちゃんのほっぺ、苺より赤いよ」
言葉にされるとますます熱が上がったような気がした。
ばっと慌ててうつむくように顔を背ける。
「も、もう。からかわないで」
「からかってないよ? かわいいなぁっていつも本気で思ってる」
困ったような顔をすることしかできないのに、それでも彼はそんなわたしを嬉しそうに見つめていた。
そのうち、わたしの手から苺をつまみとる。
「ほら、口開けて。あー……」
戸惑う隙もなく近づいてきた赤い実を、ぱくんとくわえるように頬張った。
ヘタの部分だけ指先でちぎっておく。
「ん、美味しい。すっごい甘い!」
「本当? ……どれ、確かめさせて」
そう言った大和くんがゆっくりと顔を寄せてきた。
息も思考も止まって、周囲の音が遠のく。
その分、加速していく自分の心臓の音だけが大きく響いた。
「……なんて」
間近に迫ってきていた彼の唇は、触れる寸前でぴたりと止まった。
すっと身を起こしていたずらっぽく笑う。
「冗談だよ」
そのひとことに深く息をついた。止めていた分がこぼれた。
だけど、まだ少し苦しいまま。
「びっくりした……。や、やっぱりからかってるでしょ」
さっき以上に赤く染まっているだろう頬に手の甲を押し当ててみた。
じんじんと熱が染みてくる。
思わずむっとしたものの、大和くんは肩をすくめて笑った。
「そんなことないけど、ごめんね。もう意地悪しないから怒らないで?」
眉を下げて顔を傾ける彼。
ずるいな、と思った。あざといとも言える態度と表情に。
分かっていても、そんな大和くんの一面にわたしは弱い。
存分にいちご狩りを楽しんだあと、またバスに乗り込んだ。
20分くらい揺られて到着した先は、色とりどりの花が咲き乱れる花畑だった。
「綺麗……」
あたり一面を春色に染め上げているのはチューリップだ。
視界を鮮やかに彩ってくれる。
「でしょ。俺ね、風ちゃんとこういうとこ来たかったんだ」
穏やかに告げた大和くんに、すっと手を差し出された。
仰向けられたてのひらに自分の右手を重ねる。
ごく自然な流れで手を繋ぐと、青空のもとに広がる可憐な花畑をゆったりと歩き出した。