雨上がりは君の隣にいたい

雨の中で

「あっ」
昇降口で、私は、ある事に気づく。
「どうした?」
「傘、忘れた」
「しょうがないな」
そう言って、自分の傘を開き、雨の中に出た蒼井くんは、私に手を差し出す。
「ほら、来いよ」
「うん」
蒼井くんの手を取ると、傘の中に引き寄せられる。
そして、繋がった手をぎゅっと、蒼井くんが握った。
その手は、冷たい。
「覚えてるか?」
「えっと、何を?」
「なんでもない」
「...私」
「なんでもないんだ。行こう」
そう言って、手を離した。
「...うん」
今、胸の奥が、ぎゅっとなった。
学校から歩き続けて、しばらく経った。
降り続ける雨の下、この傘の中は、二人だけの世界だった。
「あのさ」
「はい」
「...やっぱり、何にもない」
じゃあ、なんで、そんな目をしてるの?
いつも、透き通ってる目が曇っているの?
「水月」
「っ、はい!」
「ここだろ?」
「えっ」
「家」
目の前は、もう、家だった。
「風邪、引くなよ」
「待って」
「寒いから、中、入れ。じゃあな」
そう言って、蒼井くんは、歩き出した。
「蒼井くん」
「なに?」
「言ってよ、言わなくていいなんて、思わないで」
振り向いた蒼井くんの瞳の奥が、暗く、揺れていた。
「水月には、敵わないな」
「話してよ」
まだ綺麗な瞳の奥が揺れている。
「俺は、さ。水月に無理してほしくない」
「無理?」
「大事な人のために頑張るから、その分、自分の事は、あと先考えないだろ。それで自分のこと責めてほしくない」
「自分を責める?」
「ああ。お前は今も自分を責め続けてる」
葵井くんは今にも泣きそうだった。
「心配しなくても大丈夫だよ」
「水月...」
蒼井くんは私を心配してくれてるんだ。
なら、安心させないと。
「私は私だもん」
「水月」
蒼井くんがなにか言いかけたとき、後ろから声をかけられた。
「なにしてるの?」
「お母さん、今、友達と話してて」
「誰?」
「誰って、蒼井くん」
「後ろ、誰も居ないわよ」
「えっ?」
後ろを振り返るとそこに蒼井くんは居なかった。
帰っちゃったのかな。
「それに蒼井くんは、」
と言いかけお母さんは黙ってしまった。
「お母さん、蒼井くん知ってるの?」
「何でも無いわ。濡れる前に入りなさい」
蒼井くん、明日も会えるかな。
それからしばらく雨は降らなかった。
雨の日が来ても彼は姿を見せなかった。
そして、梅雨明けが発表され、余計に雨の日が少なくなり、蒼井くんに会えない日は続いた。
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