大嫌い同士の大恋愛
 翌日、相変わらず、江陽と聖は二人で出社し、私は、一人でマンションを出る。

「おはよう、名木沢さん」

「――片桐さん?」

 すると、門の前で片桐さんが待っていて、私を見つけると、片手を上げた。
 私は、慌てて彼に駆け寄る。
「お、おはようございます。――何か、トラブルでもありましたか?」
 こんな風に待ち構えているという事は、何か、あったのかもしれない。
 そう思って尋ねると、片桐さんは、困ったように微笑んだ。

「いや、ただ、キミと一緒に、会社に行こうかと思っただけだよ」

「え」

 確か、片桐さんは、男性社員専用マンション――ここから歩いて三分ほどの距離だ――に、住んでいるんだっけ。
 でも、何でだろう。特に用事は無いのに。

「あ、あの……」
 彼は、私の疑問に、先回りして答える。
「気にしないで。――ただ、僕が、そうしたいだけだから」
「――片桐さん」
 ストレートに言われ、反応に戸惑う。

 ありがとう、と、言うべきか。
 やめてくれ、と、言うべきか。

 けれど、今後にかかわる気がしたので、私は、口を閉じる事にした。

「ああ、そうだ。名木沢さん、お見合い、どうだった?」

「え、あ」

 ――けれど、あっさりと失敗。

 私は、視線をさまよわせる。
「――まあ、成立という訳じゃないよね?」
「当然です」
 バッサリと切り捨てるように返すと、片桐さんは、相変わらずの穏やかな微笑みでうなづいた。
「――だよね。でも、お母さん、あきらめたのかな?」
「……いえ、ただ、様子を見ると……」
「そう。……あのさ、この前の事、やっぱり考えてみないかな?」
「え?」

 ――この前?

 私は、キョトンとして、片桐さんを見上げる。

 すると、彼は、口元を上げて続けた。

「――いっそ、僕を彼氏として紹介してくれれば、って」

「あ」

 そう言えば……そんなコトを言っていたような……。

「い、いえ、あの、そういう訳にも……」
「僕はかまわないよ?」
「でも」
「名木沢さん」
 言い合いに発展しそうな雰囲気を、片桐さんは、穏やかに遮る。

「――僕、キミをあきらめた訳じゃないよ?」

「……か、片桐さん」
「だから、チャンスがあるなら、押していくつもりだからね」
「――……で、でも……」
 そうは言われても……一応、お断りしたはずでは……。
 私が、どうやって断ろうかと悩んでいると、彼がのぞき込んできた。

「キミの男嫌いを承知の上で、申し込んでるんだからさ」

 彼は、ニッコリと、穏やかに微笑む。

 ――けれど、その言葉に、うなづいて返せない私がいた――。
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