冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
「なんということでしょう! 馬車とはこんなに速いのですね!」

 屋敷を出てから今まで、モーゼスの言いつけを守ろうと必死すぎて、名無しは周りが見えていなかった。

 しかし、一度気付いてしまったら、それを無視することなんてできない。

 車窓から見える景色がどんどん後ろへ流れていく。

 こんな経験も初めてで、名無しは興奮気味に車窓に張りついた。季節は初夏を迎え野山は青々と生命力に満ち、道端の花は太陽の光をたっぷり浴びて可憐(かれん)に咲き誇っている。

 そこで名無しは、屋敷の外に出たのが人生初だと気が付いた。

「そういえば、馬車に乗るのも外に出るのも初めてでした……! ふふふ、こんな素敵な経験ができるのも、アリッサ様のおかげですね!」

 目まぐるしく変わっていく世界を興味津々で眺める名無しは、人生で一番というほど気分が高揚している。

 マードリック公爵家のある街外れに向かって街の様子が変わり、豊かな自然が次々と名無しの目に飛び込んできた。

 青い空や(はる)か遠くに見える山々は、果てしない世界を教えてくれる。

「建物がたくさんありました! 今度は緑がたくさん並んでいます! まあ、あんなに大きな木も……!」

 金色の瞳をさらに輝かせ、名無しは流れ行く景色をずっと目で追っていた。

 生まれて初めて見る広大な景色は、暑さも吹き飛ばして名無しの心に深く刻まれていく。

 驚くほど前向きで素直な名もなき令嬢は、人生最大の荒波を乗り越えようとしていた。


< 36 / 36 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:23

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
  • 書籍化作品
  • コミック掲載中
表紙を見る 表紙を閉じる
伯爵令嬢ロザリア・スレイドは天才魔道具開発者として 王太子であるウィルバートの婚約者に抜擢される しかし初対面から「地味で華がない」 と冷たくあしらわれ 王太子は男爵令嬢のボニータを 恋人として扱うようになってしまう それでも婚約は解消されることはなく 結婚したが式の当日に ボニータを愛妾として召し上げて 初夜なのに放置された 名ばかりの王太子妃となった 結婚して六年目の嬉しくもない記念日 愛妾が懐妊したから離縁だと言われ 王城からも追い出されてしまう ショックは受けたが新天地で一人 生きていくことにしたロザリア そんなロザリアについてきたのは ずっとそばで支え続けてくれた 専属執事のアレスだ アレスから熱烈な愛の告白を受け 溺愛される毎日に ロザリアは翻弄されまくるのだった 一方、ロザリアを手放したウィルバートたちは 魔道具研究所の運営がうまくいかない また政務が追いつかないのに 邪魔をするボニータから 気持ちが離れつつあった 深く深く愛される事を知って、艶やかに咲き誇る ——誠実で真面目すぎる女性の物語
表紙を見る 表紙を閉じる
アステル王国で離縁され ずっと支えてくれた 専属執事 兼 竜人の国ラクテウスの王太子 アレスと結ばれ三年 新婚旅行も兼ねて魔道具開発のため 素材探しの旅へ出ることにしたロザリア ついでに帝国と外交をして 魔道具の販路拡大を目標に 夜会へ参加しようとしたけれど—— 「わたくしがアレス殿下のお相手を するようにと言われたのです!」 と皇女がアレスに迫り 「私とダンスを踊ってくだされば ロザリア様の願いをひとつ叶えましょう」 と皇太子に誘われ しまいには新婚旅行についてきてしまった 皇太子と皇女 嫉妬に狂うアレスの愛を受けながら ロザリアは目的を果たせるのか……? 一方、番を引き裂こうとする皇太子たちは うまくいかない状況に苛立ちを募らせ とんでもないことを画策するのだった それが自分の首を絞めるとも知らずに—— こちらは捨てられた妃の第二部となります 第一部の方からお読みいただくことを お勧めいたします✧︎◝︎(*´꒳`*)◜︎✧︎˖ またアレスの竜王様に対しての 言葉遣いは書籍に合わせて 変更しています。 ご理解のほどよろしく お願いいたします
表紙を見る 表紙を閉じる
アマリリスの両親が亡くなり 伯父一家が侯爵家の後継者となった 伯父は優秀な弟一家であるアマリリスたちを嫌っており 双子の兄は養子に出され アマリリスは使用人同然の扱いになる アマリリスには公爵家嫡男の婚約者もいたが 従妹に悪女だと吹き込まれ 婚約破棄を宣言されたうえ奪われてしまった そこで思い切って悪女だと便乗し 国外追放をもぎ取り自由を手に入れるアマリリス 兄とも音信不通なのでひとりで生きていこうとした矢先 なぜか騎士に連行され王城へ向かうと 国王陛下と王太子ルシアンが現れた 「其方に頼みがある。ルシアンの教育係になってほしい」 「……私、稀代の悪女と呼ばれていますので、なにかの間違いでは?」 王太子の腹黒教育係として王命まで下され アマリリスは断れず新たな生活がスタートする ところが—— 「……ずっと前から君がほしかったと言ったら、信じる?」 「——はい?」  素直すぎる(?)王太子と悪女の才能あふれる令嬢の物語 ※冒頭に少しだけ暴力表現があります。ご注意ください。 ※タイトル変えました。 旧タイトル 『王太子の教育係〜婚約破棄された悪女をご指名ですか? 王命って、なにかの間違いですよね?〜』

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop