【完結】梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~

梅雨の終わり、君と――


 真っ暗だった公園が、光に包まれた。
 梅雨夢境鯨(つゆ・むきょうげい)が、ナギサを飲み込み、用意されていた術式容器(いれもの)が鯨を拘束した光――。

 ではなかった。

 コノミも爆風にふっ飛ばされ、次にくる痛みに身構えした。
 が、自分を包む優しい温もりに気がつく。

「あ……あれ……?」

「大丈夫?」

 光の中で、ナギサにお姫様だっこされていた。
 ナギサはコノミを抱えて、公園の電波塔の上に立っている。

「ナ、ナギサくん……?」

「コノミ、怪我は今僕が治してるからじっとして」

「……夢……?」

 どういう状況なのか、いまいち理解できない。

「契約完了。君の『助けて』という願いを、僕が受諾した」

「え……」

「君に助けてと言われたら……自分の役目なんかどうでもよくなったってこと」

 まばゆい光のなかで、巨大な梅雨夢境鯨が骨になって消えていく姿が見える。
 ナギサが左手に持った光の刀が、蛍のように散る。
 光に包まれたコノミは、温まり癒やされていくのがわかった。

「……うそ……これはナギサくんが……?」

 この術のレベルが超高度のものだと、コノミにはわかるのだ。

「別に喰われてやるからって、僕が脆弱だとは言ってないよ」

 ナギサは微笑んだ。

「そ、それなら蝶にだってなれたじゃない」

「なるつもりはなかった。サナギにも。でも、もうなるしかないよね? 一族の使命なんかより、君が大事だ……」

 光に包まれた、二人の運命。
 重大な謀反者に、なってしまった。

 ビーービーービーービーー

 どこかで警報が鳴っている。
 これから二人は、追われ続ける事になるだろう。

 だけど、ナギサは微笑んだ。

「僕が蝶でもなんにでもなって、君を守り続けるよ。だから一緒に逃げよう」

「……ナギサくん……」
 
「一緒に来てくれる……?」

「うん……うん……一緒にいたい……」

「よかった」

「あの、あのね……私……」

 言わなきゃ……とコノミは思った。
 どうして、こんな無茶をした理由を……伝えなければ。

「僕は君の事が、とても好きだよ」

「ナ、ナギサくん!!」

 お姫様だっこされながら、コノミは真っ赤になる。
 コノミもナギサがとても好き、それを伝えようと思っていたのに……。

「わ……わ、わ……私も好き……」

「うん。大樹になんかならなくてもいいんだ。今の頑張り屋さんの君が、僕にとって一番好みだよ」

「ひゃ!! ……えへへ……私だって、今のナギサくんが大好き……! サナギもナギサも全部大好き……!」

 今度はナギサの頬が、少し染まる。

「ありがとう……恥ずかしいけど、想いを伝え合うのは嬉しいものだね……」

 照れながらm二人で微笑みあった。

 光の中で、公園に降り立つ。
 ナギサの右手に揺れた、青いリボン。

「さぁ行こう。今度からは、いつだって素直に助けを求めるんだよ」

「うん! じゃあまずは整骨院の……本当は聖術経絡院なんだけど、そこの院長に助けを求めよう! 贄儀式には昔から反対してる人なんだ! きっと逃げる手助けをしてくれる!!」

「僕にも一応、アテがある。あそこの遊具の影にある結界から、僕はこの公園に来ていた。そこを閉じて違う扉を開放しよう」

「すごい! 転移結界も使えるの!?」

 転移結界とは、瞬間移動できるドアのようなものだ。

「うん。できるだけ君には、苦労はさせない道を選びたい」

「私はナギサくんと一緒なら、苦労だってなんだっていいもん」

 ナギサの手をしっかりと握って、コノミは笑った。
 青いリボンが、まるで運命の赤い糸のように揺れる。

 重たい本もスマホも、自分に課せられた家の呪縛も、二人は全て公園の芝生に置いていく――。
 
「ふふ、これじゃあ梅雨鬱々倶楽部ではないね」

「梅雨ウキウキ倶楽部にしようか?」

「それはいいね。でももう梅雨も終わりだよ」

「あ、本当だ……雨やんでる!」

 禁忌を犯して、逃亡することになった二人。
 この先、波乱万丈なのは間違いないが、二人の手が離れることはない。
 
 梅雨の重い雲は晴れて、水たまりを二人で駆け抜ける。

 パシャパシャと水たまりを走る足音は、まるで祝福の拍手。
 満月と星達も、二人を祝うようにキラキラと輝いていた。

 梅雨鬱々倶楽部~梅雨と初恋、君の命が消えるまで~
 完

  
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