振り向けば、キス。
悪鬼を退治することは、悪鬼を浄土へ送り救うためだと信じた天野は、攻撃力に特化した一族として名を馳せるようになった。

その後、数百年後に現れた雨宮は、人の世の生活を守ることを第一としていた。先を読む眼を持つ巫女を頼りにし、悪鬼の出現を、世の変動を時の政権に進言するようになった雨宮は、月読みの一族として敬われた。

どちらもが、理想も夢も、そして野望を抱いていたはずであったが。

長すぎる歴史は、一族の形を確かにゆがめ始めていた。


天野も雨宮も。己に固執し、周囲を排除し、力を示して生きてきていたからだ。


人間なんて、おろかなものだと男は思った。

自分の名前さえ、知らない、その男は。

段上にそびえる雨宮神社の明かりに背を向けた。

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