お嬢様は“いけないコト”がしたい
「私が出すよ、急にお邪魔して申し訳なかったし。」



お会計の所でどっちがお金を払うかで10分は押し問答をしている。
お客さんも増えてきたので幸治君の弟も妹もレジからいなくなってしまった。



「邪魔でも何でもなく、久しぶりに会えて嬉しかったですから俺が払います。
今はちゃんと稼いでいるのでこんな金額何でもないですから。」



「でも、私の方が7歳も年上で、幸治君よりもずっと長く会社員として働いてきた。
それにお母さんと2人で暮らしている家を出ることもなく、遊ぶこともなく暮らしてきたから貯金も沢山ある。」



自分で言っていて何だか悲しくなってしまった。
1時間くらい前にお父さんから言われた言葉が自然と思い浮かんでくる。



その言葉を思い浮かべ何だか涙が出そうになり、慌てて下を向いた。



そしたら、見えた。



お会計の所に台があり、そこに可愛らしい雑貨が沢山置かれているのが。
凄く私の好みの雑貨が沢山売られていた。



でも・・・



こんなに可愛らしい物を持てる歳は終わってしまったようにも思う。
私は今日で31歳になった。



増田財閥の本家の為に私も生きてきた。
増田財閥の分家の女として正しく生きてきた。



だってお父さんがそうやって頑張って生きてきた姿を見てきたから。



ずっとずっと見てきたから。



だから私もそうやって生きていくものだと当たり前のように思っていた。



社会人2年目、私の24歳の誕生日の日にお父さんとお母さんが離婚するまでは。



そんな人生が当たり前なのだと思っていたのに、私の人生は一変した。
私の23年間の人生をお父さんから否定されたようで、そして当たり前の人生が急になくなってしまったようで。



なのに私は変われなかった。



全然変われなかった。



23年間、私はお父さんからそう教育されてしまったから。



増田の本家を支える為だけに生きるよう、私はお父さんからそう教育され、そしてそんなお父さんの姿を見て生きてきたから。



お父さんの頑張っている姿を見て育ってきた。



「羽鳥さん。」



幸治君が静かな声で私の名字を呼んだ。
お父さんの姓、小関ではなくお母さんの姓である羽鳥と。



そして・・・



置いてある雑貨の1つ、薄いピンク色のタオルハンカチを幸治君が手に取った。
赤いプレゼントの箱とお花がタオルハンカチの端にいくつか刺繍してあるハンカチを。



私が1番“可愛いな”と思ったハンカチを。



「今日は羽鳥さんの誕生日ですよね?
なので俺に払わせてください。
あとこれ、1番下の妹が趣味で作っている雑貨で。
300円で申し訳ないですけどプレゼントさせてください。」
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