玉響の花雫    壱
いつものように車に乗せてくれ、
会社から車が出たところで
ようやくホッとして顔を上げる


「あの‥‥これからは外で
 待ち合わせしてはダメですか?」


『‥‥別に構わないがどうした?』


どうしたと言われても‥‥‥
筒井さんがモテるからとか、
さっき考えていたような事を
伝えたら馬鹿じゃない?って
言われそうだしな‥‥


「あの‥‥私は会えるだけで顔がその‥
 赤くなったりしてしまうので、
 社内だと他の方に見られますし、
 隠せないとご迷惑かなと‥‥」


いつも茹蛸とか真っ赤とか
言われてしまうし、筒井さんみたいに
表情を変えずに、なんてことは
私には出来ない‥‥


『フッ‥‥‥いいよ。
 じゃあこれから誘う時は前もって
 メールか電話をする。』


スッと伸びて来た手が私の頬に触れ
そこを撫でると、赤くなった顔を見て
やっぱり茹蛸みたいだなって言われた


『いらっしゃいませ。』

『予約した筒井です。』

『筒井様‥‥はい、
 お待ちしておりました。
 こちらにご案内致します。』


すごく高級感のある
和風の料亭らしき佇まいに、
ノースリーブのカットソーに
パンツスタイルの私は
場違いな気がしてならない


筒井さんは夏だからジャケットは
ないもののスーツだからいいけど、
不釣り合いじゃないか不安になる


『こちらへどうぞ。
 狭いですが、個室になってますので
 お一人ずつ向かい合わせでどうぞ。』


通路に沿って引き戸があり、
引き戸の右側を開けると3畳ほどの
スペースの素敵なお部屋があった。


まるで昔乗った寝台列車のようで、
人の目も気にせずゆっくり食べられる
からいいなと思えてしまうサイズだ。


『ご注文はどうされますか?』


『コースを2つお願いします。』


コ、コース!?
私に払える額かな‥‥‥。

カードがあるし大丈夫だけど、
新人のお給料でこんなところは
菖蒲とも絶対来ない場所だから
緊張して来た。



『フッ‥‥そんな構えなくてもいい。
 ここはリーズナブルだけど
 何を食べても美味しいから。』


「‥‥はい、すみません。」


こういう時も多分顔に出てしまってる
のか筒井さんにはいつも思ってることを
当てられてしまう。


筒井さんのように、ポーカーフェイスに
なれる日が私にも来るのだろうか?




「美味しい‥‥ッ!」
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