『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
103  

 初めて聞く当時の百子の様子に、俺の胸は痛む。


「それで編集者の今の恋人でもある山下さんって人がね、お母さんの
小説を気にいってくれてコミカライズされることになったの。
 まぁ、そのことがご縁に繋がったのかな」


「へぇ~、すごいことが起きるもんなんだね」

「驚いた? お父さん」

「あぁ、むちゃくちゃ驚いてる」


「付き合い出したのは仕事の打ち合わせなんかしてた時じゃなかった
みたいで、そのずっと後だったみたいよ。

 私もその辺の詳細は知らないからお母さんからプロポーズされたって
聞いた時は吃驚くりくりだった」


「俺もー、でっかい子持ちなのに、すごいよなって。
 たぶんアレだよ、お母さんは上手い具合に自分の運気の高い時に
山下さんと縁があったんだよ」


「じゃあ、おかあさんは小説家になったのか?」


「う~ん、どうだろう。あれから新作が書けたって言う話は
とんと聞かないし。たまたまじゃないのかなぁ。

 奇跡的に宝くじに当たったのと同じじゃない? 
ってそこまで言ったら失礼かな。

 今もチマチマ書いてはいるかもしれないから。
 よく分かんないその辺のことは」


 ここまで話をしていたところで、百子がリビングに戻ってきた。


 百子がリビングに戻るともう話すことがなくなったのか、
茜と淳平は2階へと上がっていった。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 ん? 結局淳平は伸之と一言ぐらいは話せたのだろうか、自分が
部屋に戻ると何も言わず姉と一緒にそそくさと上に行ったものだから
百子には分かりようもなかった。


 こういう場合伸之にどんなふうに声を掛ければいいのやらと
思っていたところ、上手い具合にというのも変だが伸之のほうから話が出た。



< 103 / 116 >

この作品をシェア

pagetop