『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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 仕事帰りのカフェの中で彼女が話す結婚に向けてへの話を
ひとしきり聞いた。


 一人娘なので養子に入ってもらわなければならないと言う。

 あのぉ~、俺も長男なんだよ。
 心の中でそう主張したが口には出さなかった。


『それでね、私、一人娘でしょ。
 だから早瀬さんには養子に入ってもらわないといけないんだ……』


 彼女の主張は提案ではなく決定事項だった。

 この後も楽し気に自分たちの未来について延々話していたけれど、
早瀬の耳には馬耳東風。

 早瀬の視線も耳ももはや彼女を素通りしていた。


 取り敢えず、この日は彼女の彼女側だけに都合の良い未来の計画を
聞くに留め、駅の改札口で別れた。

 早瀬はため息しか出なかった。


 そしてこの月の末日をもって早瀬は退職した。
 
 その後職場が変わったことで仕事帰りに会うというのは無理になり、
デートは休日だけになった。


 転職後一ヶ月、職場に馴染むのに大変だからとやんわりと彼女からの
デートの誘いを断り続けていたのだがそんな時だった。


 しばらくして突然百合子といきなりあなたの子なのと言われた翔麻が
自分のところへ転がりこんできたのは。


 このことが決定打となった。


 会うのをやんわりと断り続けていた芽衣子から、デートの誘いではなく
自分たちの結婚についての話し合いがしたいと連絡がきた。

 百合子と翔麻の件がなくともこの結婚はないなぁ~と考えていた早瀬だったが、
ふたりの出現でそれに背中を押される形となったことは否めない。


 ただのデートの誘いではない。

 逃げ回るわけにもいかないだろう。
 早瀬は観念した。




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