『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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◇完成披露試写会


 そして映画化されたことを山下と一緒に喜びを分かち合った日から
まるまる2年めを迎えようとしていたある日のこと、山下から連絡が
入る。


『あっ、映画が完成したのだな』と百子はすぐにそう思った。

 表向きはフィクションということにしてあるけれど、映画の内容は
ほぼ自分史なのだ。

 そのせいもあって百子がずっと気になっていたのは何といっても
主人公の配役だった。

 どうしたって自分を重ねてしまうから。


『石田さん? でよかったですか』

『はい、まだ石田ですよ』


 山下さんは私がまだ離婚したのかしてないのか、開口一番訊いてきた。

『もしかして、映画完成しました?』

『ええ、試写会の案内がきましてね、僕と石田さん2名で頼んでおきました。
 なんとその日は1が4並びの11月11日です。縁起がいいでしょ?』


『ほんとに、すごいですね。幸先良さそうで……』

『僕たちの席は貴賓席と呼ばれる2階の指定席なんですよ』

『へぇ~、そうなんですか』


 山下の話を聞きながら百子は1階席より2階の席の方が良いという発想で
指定席が2階になっていることに、今一つピンとこなかった。


 山下の話振りからすると良い席なのだということらしいが。



『映画のタイトルですがコミックの[悲しみの向こう側]とは違って
[別れの刹那に]―さよならと言おう―というのになったようです』


『そうなんですか。すごいタイトル付けてもらって、心臓が
ドキドキしてきました』


『それじゃあ、劇場でタイトルを目にしたら倒れるんじゃありませんか』

『ふふっ、そこまでいかないとしても固まるのは確実です』

『いゃあ~、実に楽しみですよ』

『山下さん、ありがとうございます。
 小説を取り上げていただいて、映画にまでなって。
 わたくし、一生の宝、想い出になりそうです』


『いゃぁ~、お礼を言うのは僕のほうです。
 これで改めて自分の目に狂いがなかったということが証明されて
自分にも先見の明ってものがあると自信が待てましたから』




 映画の試写会は19時からということで山下さんとは少し早めの
17時頃に待ち合わせをして食事をしてから試写会に臨もうということに
なった。

 
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