『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
58

 石田さんが声を掛けてくれたのが社交辞令だということくらい
分かっているが嬉しかった。

 ほんとに気がきいてやさしい女性(ひと)だ。


 ほんとにもう一度コーヒーを淹れてもらえる日がくればいいのに、と
思いながら……しかしそんな日が来ないこともわかっていて、少し切ない
気持ちを抱えて帰路についた山下なのだった。



          ◇ ◇ ◇ ◇




 一方百子のほうでも、もう山下との会う目的がひとつもなくて
なんだか寂しく切ない気持ちになるのだった。


 投稿サイトへなんとか書けたオリジナルの作品を投稿したら、また
山下は読んでくれるだろうか……。

 そんな詮無いことまで考えてしまうほどに。


      ――――――――――――――――




私は過去に恋愛の本を読み、一度だけ唖然させられたことがある。


 既婚者で小さな子供のいる女性の話だった。




 義父、義母、夫。

 夫は義両親に対して上手く立ち回ってくれず妻が困っていても
『親に悪気はない』というだけで放置プレイ。

 夫婦生活も言わずもがなで自分勝手な行為で毎回終わる。
 日常の何もかもに嫌気が刺す妻。



 そこへ昔学生時代に付き合っていた男性との再会があり、
付き合いが復活する。

 当時女性は将来もずっと一緒にいられればというぐらいその男性のことを
恋慕っていた。

 だが、ふたりの交際はそう長くは続かなかった。


 モテる男にありがちなちょっとした浮気があった為だ。



 女性がそれをモロに鉢合わせという最悪な形で知ることになってしまい、
ふたりの関係はそれきりになった。



 好いていた分だけ、女性は男をどうしても許すことができなかった。


それはそんな思い入れのある懐かしい人との再会なのだ。
 昔の恋人と身体の関係になるのは早かった。



 元彼はとにかく性技に長けていて、女は蕩けるような至福の時間を
持つようになる。


幼稚で稚拙な自分本位の夫とは比べようもない。
 かゆい所にまったく手が届かないのが夫だった。



 しかし、女は離婚とか男との結婚とか、そんなものは考えていない。


 
 短い期間とはいえ濃厚な付き合いがあり、そしてその後の男の裏切りで
会わなくなり、もう自分の人生と交差することもないと思っていた
男性(ひと)との再会は、息苦しいだけの女の人生に彩を与えた。 


 ふたりは逢瀬を重ねる。
 女は夫に対して罪悪感など微塵も持たない。



 だが、ただ幸せな時間はそう長くは続かなかった。
 魅力的な男は病魔に襲われるのだ。


 ここまで読んで、私の期待はMAXになる。



< 58 / 116 >

この作品をシェア

pagetop