『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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『この家から出て行ってくれないか』
が早瀬の本意だった。

 もちろん、本意は百合子にも理解できた。

 なんて自分は運が悪いのだろう。
 石田と早瀬の接触さえなければ、早瀬と結婚して晴れて本当の親子として
翔麻と3人新しい人生を始められるはずだったのに。


 自分はあの時間違った選択をした。

 妊娠した時、子供がどちらの子であるかはっきりと分かった時点で
行動を起こすべきだったのだ。

 それなのに自分はどちらの子であっても石田の子として彼と
結婚したかった。


 お金やプライドやさまざまなものに執着していたのだ。
 はっきり言って早瀬のことなど眼中になかった。



 それなのに、結婚できず彼の元から去らねばならなくなると、
辛い自分がいた。

 息子翔麻の実の父親であり、頼って尋ねた後のやさしく広い心で
受け止めてくれた彼の言動を思い出すにつれ、百合子の悲しみは深まる
ばかりだった。


 けれど、今度こそ執着して彼を困らせたりしてはいけないと思った。


「早瀬くん、翔麻と相談して決めてもいいかな」

「まだ5才だからね、こんな大事なことを決められるだろうか」

「私に付いて来たらお金のことで不自由な思いをすると思うの。

 だから翔麻の様子を見て、話しを聞いて、何があっても私と一緒がいいと
言えば私が連れて行くわ。

 買ってもらえない物があったりして、この先我慢しなきゃいけないことも
出てくると思うのね。

 それと母親が仕事に出てる間はおばあちゃんたちと待ってなきゃいけないとかって
いうことも話して、そういうのを 聞いて翔麻が躊躇するようなら、
置いていこうと思うの。

 そこは早瀬くん家に残っても母親がいないところは同じだから、
そこもちゃんと話しておく」

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