『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -
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◇思いがけない再会

 北野異人館街帰りの電車の中、亜弥子は電車に揺られながら寄せては返す
波のように山下との関わりのある少し前の記憶を手繰り寄せ思いを巡らせる。

 これまで少ないながら異性との付き合いも多少の経験はある。


 どう考えても普段の山下の言動やそして最近ではカフェでの自分から
投げかけた受け答えから導き出される答えは明白だった。


 彼は自分のことなど微塵も気に掛けていない……ということ。
 ただの職場の部下、後輩という立ち位置以外何もないということ。

 悲しいがこれが現実だった。

『寂しい……』
亜弥子は独り言ち、ため息を吐いた。

と同時に……
『あっ、そっか。なぁ~んだ』
何かを思い出した風に亜弥子はまたもや独り言ちるのだった。



          ◇ ◇ ◇ ◇

 一方その頃百子は……。


 あの後、山下の提案通り帰りは新神戸駅までの道のりをゆっくりと歩き、
タクシーで三宮駅まで戻った。


『途中でタクシーを見付けられればそこで拾うことにしますよ』
と言っていた山下だったが自分と会話していたせいか後一歩のところで
拾いそびれ、結局駅でタクシーを拾うことになった。


 新神戸駅に向かう道々山下から聞かされた話では、今回彼に連れてこられた
北野異人館街は先ほどの女性から仕入れた情報だということだった。


 そんなことなども彼女とは話したりする仲なのかとまたもやモヤっとして
しまう百子だった。

 彼女が持っていて自分が持っていない『若さ』というものに
嫉妬しているのだろうか。


 そう思えば思うほど、百子はどんどん山下との次の約束が
重荷になっていくのだった。
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