シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

デートっぽい

 先ほどの豪雨が嘘みたいに晴れ上がった空は⾼く、きらめく⼀⾯の⻘い海は美しい。
 ⼀花は⾵に乱れる髪を押さえながら⽬を細めた。

「寒くないか?」
「はい。⼤丈夫です」

 そう答えた拍⼦に、砂に脚を取られてふらつく。
 颯⽃が肩を抱いて⽀えてくれた。

「あ、すみません」

 パンプスで来るところじゃなかったなと⼀花が苦笑すると、颯⽃も同じことを思ったらしく、⼿を差し出した。

「その格好じゃ、歩きにくいな」

 ⼿を取られて、砂浜を歩いていく様はまるで本物の恋人同士のデートみたいだと⼀花の胸は⾼鳴った。そして、すぐ⾃分を諫める。

(恋⼈のふりをしてるんだもん。当たり前だわ)

 今も嫌がらせの犯⼈は⾒てるのだろうかと、なにげなく周囲を窺うが不審な⼈物はいない。
 どこまで恋⼈のふりなんだろうと思い、聞けずに⼀花はそっと⽬を伏せた。

「あ、きれいな貝」

 視線を落としたら、足もとにピンク色のかわいい貝がらが落ちているのに気づいて拾い上げる。その先には白い貝がらがある。
 季節は過ぎてしまったが、夏は貝がらを利用した装花も素敵だなとデザインを思い浮かべる。
 普段来ないところに行くと刺激があっていいなと思う。
 初秋の今は暑くも寒くもなく、そぞろ歩くにはいい季節だった。 

 海を堪能してから、今度は⾞でヨットハーバーに隣接した商業施設に⾏き、着替えなどを買う。
 下着を買うときはちょっと恥ずかしくて、チラリと颯斗を見たら、彼も気まずげにしていたから、頬をゆるめた。

(颯斗さんでも動揺することもあるのね)

 でも、彼はすべての会計をさっと済ませて、一花には払わせてくれなかった。
 そんなところは本当にスマートだ。
 外に出たら、ちょうど⼣暮れにさしかかる時間で、並んだヨットの背景に⻘紫やピンクに彩られた空と海が⾒えて、ロマンティックな景色を作っていた。
 海岸でのように⼿は繋いでいなかったが、颯⽃は気軽に⼀花の腰を持って誘導したり、肩に⼿をかけたりするので、彼⼥はドキドキしっぱなしになる。

(颯⽃さんはどう思ってるんだろう?)

 そっと横⽬で窺うが、彼はいたって⾃然体だ。
 こんなに素敵な彼なのだから、女性から誘われることも多いだろう。⾏きずりでベッドをともにするなんて、彼にとってはよくあることなのかもしれない。彼を拒む⼥性なんてほとんどいないだろうから。
 ⼀花だってそうだった。

(恋⼈のふりついでに、そんな雰囲気になったから?)

 考えてみたら、あの状況は彼にとって据え膳だったかもしれない。異性の前で下着もつけず薄い布だけをまとった姿は無防備すぎたと反省した。誘ってると誤解されたのかもしれないとも思う。

(違うのに……)

 それでも受け入れたのは自分だった。流されるのではなかったという後悔の気持ちとともに一花は唇を噛んだ。
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