父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています
 さすがに二人ともサービス業なだけあって、営業スマイルが板に付いている。

「ルシアンコークそのものです。ウォッカみたいに強くて、コークみたいにピリリとしびれるほどカッコいいです」

「コークみたいに元気に弾ける伊乃里先生は、私の憧れの女性です」 

 二人の歯の浮くような心地良い褒め言葉を耳にして喜ぶどころか、上の立場になると持ち上げられることばかりだから自分を客観視しなくてはと肝に銘じる。

「ちょっとぉ、二人して褒めちぎっちゃって。なにも出ないわよ」

「伊乃里先生って可愛くて美人さんですよね。近寄りがたいモデルとは違って」
 どちらにしても梨奈ちゃんは私が美人って言いたいのね。

「女子アナで例えれば伊乃里先生は報道局の知的な美形じゃなくて、バラエティの可愛い女子アナでもなくて、CAみたいに色白清楚系美人さんですよね」

 おい、女子アナはどこに行った。

「梨奈ちゃん、私CAみたいなんだね、女子アナじゃなくてね」
「そんな感じなんでしょうね」
 なにに向かって丸投げしたのか、まるでひとごとみたいな適当さ。

「てか、二人付き合っちゃいなさいよ」 

「な、なんです唐突に。私なんか幸星さんには、もったいないです!」

「ぼ、僕の方こそ梨奈子ちゃんなんか手が届かない僕の女神です!」 
 一瞬で三人の動きが止まる。

「ねっ、梨奈ちゃん。幸星くん上手だよね、客あしらい。女神なんて冗談じゃなきゃ言えないよねぇ」

「お言葉ですが、僕は本気です!」
 女神を本気で言う人類第一号発見。

「ま、あとは二人で、ああしたりこうしたり、あんなことこんなことをね、うまくやってちょうだい」

 こうして他愛もない話をしながらコミュニケーションをとって信頼関係を築くと仕事はスムーズに進む。

 耳まで赤くしている二人をにやにやしながら、チラチラ交互に見ていたら梨奈ちゃんが軽く肘をつついてくる。

「今夜の伊乃里先生、とても嬉しそうですね。なにか良いことがありましたか?」

「実は戸根院長に褒められちゃった」
「良かったですね、マロのことでですか?」

「当たり。あの後、梨奈ちゃんが受付に行ってからも戸根院長とずっと話していたのよ」

「良い感じですね。伊乃里先生こそ戸根院長と付き合ったらいかがですか?」

「考えたこともない」
 なんてつまらない冷静な対応。酒席を冷ます低いテンションと返し。
 
「院長先生にお会いしてみたいです。ぜひ、お誘いの上お越しください」

「だってよ、梨奈ちゃん」
「違いますよ、紗月さんとですよ」
「口尖らせて、初めて幸星くんのふくれっ面見た」

「戸根院長は伊乃里先生にどんなレディキラーをオーダーしますかね」
「あの変人がレディキラーのカクテルなんか知ってるわけないでしょ」  

 冗談やめてよ。寝言でさえカクテルの名前なんか出てくる人じゃないわよ。

「院長先生、堅物なんですか?」
「変人よ。女性の裸体を見るよりも犬猫の臓器を診る方が好きなんだもの」

「戸根院長、御本人がおっしゃったのですか?」
「想像つくじゃん。仕事以外は人間に興味なさそうじゃない?」
「ええ、ま、まあ」
 その返事は梨奈ちゃんも思っているってことだな。

「楽しみにお待ちしております」 
 片眉を上げてニコッと笑う幸星くんを見つめる梨奈ちゃんの視線が熱いなぁ。

 なんだかんだ金払いの良い安パイの客から安パイの客を連れて来させるのが上手よね、幸星くんって。
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