朱の悪魔×お嬢様
 美玖が家に泊まってからもう一ヶ月が経つ。

 同時に新聞社に宣言してから一ヶ月が経っていた。

 凜は宣言をしてから急に多忙人となった。

 当たり前だ。

 あの羽須美財閥を継いだのだからやる事は山ほどある。

 よく父はこの膨大な書類などを片付けられたな、と感心する毎日。

 しかし、そんな事を思っている凜自身も仕事を淡々とこなしていた。

 まだ十代の若い娘がこなせるとはおそらく誰も思ってなかったので、周囲の人々は驚くばかりだ。

 羽須美財閥は着実に元のように復活を果たそうとしており、むしろ前よりも財閥を大きくしようとしている。

 凜の存在は既になくてはならない存在となり、世間も凜を認め始めていた。

(…これで良し、っと)

 凜は仕事を切の良いところまで終わらせ、身体を伸ばす。

 ずっと椅子に座りっぱなしだったので、身体の筋肉が固まってしまったような感じがした。

 ふーっと息をついてぬるくなってしまったコーヒーの残りを一気に飲み干す。


 あれから、美玖ちゃんに会ってないな…


 うっかり電話番号やメールアドレスを聞き忘れ、せっかく会えたというのに連絡が取れなかった。

 もともと赤の他人。

 その関係が戻っただけだ。

 凜は気分転換に仕事場から外へ出た。

 外の少し暖かい風が遠慮がちに髪を乱す。

 夏が来ようとしていた。

 凜は会社の周りをぶらぶらと散歩する。もう日課になってしまった散歩。

 やっぱり仕事はこなせていても精神的に無理しているところがあった。

 負けそうになる。

 凜は慌てて頭をぶんぶんと振ってそんな思考を追い払った。

(…喫茶店にでも寄ろうかな)

 会社でも直ぐにお茶などは出てくるが、外でゆっくりと飲みたかったのだ。

 喫茶店に向かう角を曲がったその時

「?!」

 急に後ろから腕をつかまれ、口と鼻に布を押し当てられる。

「ちょ、離、し…」

 だんだんと意識が朦朧としてくる。

 いけない、と分かっていても凜はそのまま気を失ってしまった。
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