隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。
「お疲れ様」
目の前にスポーツドリンクが差し出されます。
紅が落ちないためのストローまで一緒に渡してくれる甲斐甲斐しさとは裏腹に、浮かない表情で、私の隣に座ります。
着慣れない白衣の襟を緩めて、首元を手で仰ぐ至くん。
私はもらったスポドリにストローを挿して、口をつけました。
「居たね、坂本くん」
「……」
「……痛ッ!」
私は無言で彼の太ももに拳を振り落としました。至くんは顔を顰めて、太ももを摩ります。
「八つ当たりすんなよ」
「……、じゃあどっか行って」
「ふーん。そんな見られたく無かったんだ」
「……」
痛いところを突かれて、私は口を噤みます。
両手で握りしめたペットボトルの水滴が、火照った身体をゆっくりと冷ましていきます。
「……俺も少し、後悔してる」
「?」
顔を上げると、彼の顔が吐息を掠めるほどすぐ近くにありました。私の顔に降り掛かった髪のひと束を掬い、頬の輪郭に沿うようにして、耳に掛けられます。
「こんなに綺麗なお前を見たら──誰だって、見惚れるに決まってんのにな。あーあ、馬鹿なことした」
「なにそれ。口説いてるの?」
「うん、そう。口説いてんの」
「……(冗談を冗談で返された……)」
「で、返事は?」
「気持ちだけ受け取っとく」
「あっそ」
至くんはふ、と鼻にかけたように笑うと、私の耳に触れた指先をパッと離します。
「花火の後に記念撮影あるってさ」
「あー……写真……」
「逃げんなよ」
「……分かってるよ」
ほんとか? とでもいいたげに疑わしげな視線が横から突き刺さります。
するとタイミングよく、宿舎の入り口から顔を出した神原さんがこちらに向かって大きく手を振ります。
「至! ちょっと手伝ってくれ!」
「ほら、呼んでるよ」
「……、はいはい。時間になったら呼びにくるから、あんまうろちょろすんなよ」
「言われなくても」
重い腰を上げて、至くんが宿舎の中へ姿を消しました。
……ようやく1人の時間です。
今日は一日中、いろんな人に囲まれてずっと気を張っていたせいでしょうか、どっと疲れました。全身に重しでも着けた気分です。
目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきます。
しかし、それを邪魔するかの様に香ばしい匂いが夜風に乗って漂ってきました。
「……お腹空いた」