不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

襲ってもいいんだろ?

 目が覚めたら辺りは暗かった。
 すーすーという誰かの寝息が頭の上から聞こえる。
 そして、私はその人にしがみついていた。

「んー?」

 寝ぼけ眼で身じろぎしたら、暗闇の中、黒瀬さんがぱちりと目を開けたのが見えた。
 そして、いきなり私の顎を掴み、顔を近づけてくる。

「瑞希、ちゃんと覚えているだろうな?」

 艶のある低い声が鼓膜をくすぐり、私は首をすくめた。
 黒い前髪が落ちかかり、色気のある視線が私の胸を貫く。
 ベッドのうえで、Tシャツとショーツしか身に着けていない私は、黒瀬さんに顔を覗き込まれた。

(どういう状況?)

 寝起きで急に言われたのでなんのことだかわからなくて、きょとんとする。
 そんな私の唇を親指でゆっくり辿って、彼は淫靡に笑った。

「襲ってもいいんだろ?」

 息がかかる距離でささやかれて、かぁっと頬が熱を持つ。
 整った顔が近すぎて、どこに視線を向けたらいいのかわからない。
 
(そういえば、寝る前にそんなことを言っちゃったかも……?)
 
 まだ眠りの残るぼんやりとした頭で考える。

「ちゃんと言ったことに責任とれよ」

 私が覚えているのがわかったようで、ニヤッとした彼は私に口づけた。
 唇を押しつけられて、口の周りにチクチクと無精髭が当たる。角度を変えてついばまれる。

(待って待って! 私、黒瀬さんとキスしてる!?)

 驚きにはっきり目が覚めた。
 うろたえる私の唇に彼は吸いついてきて、離れるときにふにっと唇を挟むように食んだ。
 それがやけに気持ちよくて――。
 
(この人とだけはないと思っていたのに、どうしてこんなことに!?)

 彼の上手なキスに翻弄されながら、私は心の中で叫んだ。
 息をついた隙に、黒瀬さんの舌が入ってきて、またそれに乱される。
 キスに夢中になっていたら、彼の手が今度は私の胸をまさぐった。
 Tシャツの薄い布を通して彼の手の感触や熱さえも感じる。
 胸の先端がTシャツとこすれて、むずがゆいような快感に身をよじった。

「ん……んぅっ、んん……」
 
 鼻にかかった甘い声が口から漏れ出る。
 こんなに快楽に弱いはずはなかったのに、彼の手は魔法のように私をとろけさせた。
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