不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

不安

 平日は素知らぬ顔で通し、金曜の夜になると、抱き合うというのが二週続いた。
 黒瀬さんはエッチですぐ私に触れてくる。愛おしげに情熱的に。
 私は簡単に身も心も蕩かされてしまった。
 彼にどんどんはまっていっている自分が怖くなる。

 仕事は順調だった。
 神野リゾートの案件は、基本計画なので施主との打ち合わせが多く、黒瀬さんと一緒に出掛けることも増えた。
 打ち合わせには毎回社長令嬢が出席していた。
 神野綾香さんという、はかなげな美人だ。
 毎回、親しげに黒瀬さんを見て、うれしそうに笑う。
 ともに行動するうちに、黒瀬さんに声をかけてくる女性の多さに改めて驚いたけど、彼は調子よく、飄々と躱していた。
 女好きと山田主任が言っていた印象と違って、意外と隙を見せずにそっけない。
 その彼が綾香さんにだけは温かい笑みを向ける。
 それを毎回隣で見ていて、モヤモヤした。

 ――神野リゾートの社長令嬢とも深い仲らしい。

 山田主任の声がよみがえる。
 そんな噂が立つのも納得するほど、二人の親密さは際立っていた。
 
「綾香さんはたまにここに来ますよ」

 黒瀬さんが不在のとき、ふと彼女の話題を口に出したら、池戸さんがあっさりと言った。

「ここに?」

 仕事としてかと楽観的に考えたかったけど、池戸さんがあっさり否定する。

「ここっていうか二階の黒瀬さんの部屋にこもって二人で過ごしてるんですよ。黒瀬さんって、なんで彼女いないんだろうと思ってたけど、きっと綾香さんが本命なんですよ。でも、なんで付き合わないんだろう? 反対されてるとか? 社長令嬢だから、相手は神野リゾートを継がないといけないだろうし」

 それを聞いて愕然とした。
 両想いだけど、付き合えないっていうことなの?
 でも、それは私と関係を持つ前の話かもしれない。
 そう考えて期待にすがった。
 毎日一緒にいるのに、私たちのことにはまったく気づいてないようで、池戸さんは黒瀬さんがいかにモテるかも説明してくれる。
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