玉響の花霞    弍
困辱
『霞!お疲れ様!』


菖蒲と久しぶりに予定を合わせて
仕事帰りに晩御飯に行けることになり、
2人で会社近くの個室居酒屋に入り
乾杯をしていた。


「菖蒲もお疲れ様。
 企画部は最近どう?忙しい?」


生中をこんな綺麗な顔をしながらも
男まさりな飲み方でグビグビと飲む
姿のギャップも、もう何度めかになると
見慣れてきたものだ


最初は驚いたけど、
菖蒲はオシャレなカフェよりこういった
居酒屋の方が好きらしい


話し方もサバサバしていて
裏表のない性格だから安心して
接することのできる友達の1人だ


『今年から有名なパティシエとの
 コラボ企画で、新商品を出す
 ことになって、今は必死に
 会議に参加しながら学んでるよ。
 あ、あとね、後輩も出来たんだ。
 これが美男子で目の保養になるの。』


「目の保養って‥‥‥菖蒲には
 素敵な彼氏がいるでしょ?」


『それはそれよ。会社内で疲れた時に
 見れるあの容姿は、癒しとやる気を
 貰えるんだよね。』


そんな子いたかな‥‥‥。
手紙などを運んだ時も見かけてないから
今度企画部に行くことがあったら
辺りを見渡してみようかな。



『‥‥筒井さんとは楽しめた?って‥
 まぁその指輪が物語ってはいるから
 聞かなくても分かるけど?』


ドクン


右手にはめられたままの細いリングを
菖蒲が指差すと、一気に顔が熱くなり
ごまかすように酎ハイを飲んだ。


私が素直でありのままでいられる
お守りって言ってくれた‥‥。


さりげないアクセサリーなら規定で
付けていてもいいということで、
仕事中もずっと付けている。



「待っていていいんだって思ったら
 会えなくても頑張れる気がしてて、
 次会える日が楽しみなんだ。」



菖蒲に筒井さんの家の鍵を
貰ったことや、GW一緒に過ごした
ことを話すと、とても喜んでくれた。


沢山心配をかけてると思ったから、
いい報告が出来たことが私も嬉しい‥‥



『で?‥こまめに連絡はしてるの?』


「えっ?‥‥ううん。時差があるから
 電話とかは迷惑かなって‥‥」


メールもなんて送ったらいいか
分からないし、電話なんてなおさら
緊張して通話料金が膨らみそうだ



本当は声だってもっと聞きたい‥‥
とても大切にしてくれているのは
分かっているけど、いざとなると、
何を話したらいいか浮かばない‥‥。


『霞‥‥、筒井さんに素直に気持ちを
 伝えないと分からないんじゃない?
 もっとわがままを言っても向こうは
 受け止めてくれると思うよ?』


えっ?
< 43 / 145 >

この作品をシェア

pagetop