聖女になれなかったので魔法大国へ留学することにしたら、まさかの再会が待っていました

(でも、ルーカス様は着飾った女性なんて見慣れているはず!)

 ドレスの裾を真っ直ぐにしていると、ドアがゆっくりと開いた。
 視界には始め、ルーカスの足下が入ってきた。
 マルティーナは顔を徐々に上げていった。

(私どんな顔をすれば……えっ!?)

 ルーカスが驚いているから、こっちまで驚いてしまった。

「あ、あの……?」
「……な、何でもない。その……とても似合っている」
「あ、ありがとうございます! こんな素敵なドレスを用意してもらって……」

 褒められて嬉しいはずが、背中がむず痒くて堪らない。

(この会話、なんて気まずいの? いいえ、気まずいなんてものじゃないわ!)

 この頃ルーカスはこういう台詞を、それはそれは恥ずかしそうに吐く。
 確か後期試験の直後からだ。
 こちらとしても世辞に慣れていない身なので、振り絞った褒め言葉を、軽く受け取めてあげられる余裕はない。
 日常会話のようにさらりといえないのであれば、無理にがんばらなくてもいいのに……と思う。
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