初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「今後何かおかしいと思ったら、すぐ警察に連絡するかそれが戸惑うなら俺に連絡するように。
時間など気にしなくて良い。
本当はこれから警察に行きたいところだが君はそれを良しとはしないようだ。
そして、俺の家にしばらく住むことも前向きに考えて欲しい」
真剣な森山さんに私は答えに窮する。
あの時だけ、安心させるための抗弁かと思っていた。
それに彼女に迷惑がかかる事も伝えたはず。
私は一番聞きたかった事をここで聞くことにした。
「あの部屋、彼女と同棲するために借りたんじゃないですか?」
彼は特に表情も変えず黙っている。
違うのなら彼ならすぐに否定するはずだ。
だけどしない、という事は合っていると言うこと。
「後悔されているのはあの時十分に伝わってきました。
ですが私は、森山さんが悔いているその方とは別人です。
心配する順序を間違ってはいけないと私は思います。
森山さんが一番に大切にすべき人は、彼女さんですよ」
昨日の彼を見て、未だにとある事で深い後悔をしているのはわかった。
だから私を放っておけないのだ。
だがそれでもう婚約間近という立場の人に波風を立たせたくはない。
「森山さんもあんな素敵な彼女さんがいるんですから、きっとその傷も癒えますよ」
「彼女を見たことがあるのか?」
「はい、一度会社に来られているのを少しだけ。
もう婚約間近とも聞きました。
凄くお似合いでしたよ」
彼は何故か私に向けていた視線を外した。
もしかして恥ずかしいのだろうか。
そう思うと、そこまで思われているお相手の方が羨ましい。
「一番大切にする相手に誤解を与えるのはまずい、という事だな」
「え?えぇまぁそういう事ですね」
彼は私に視線を戻し、よくわからない確認をしてきてそれに同意する。
だが強いまなざしはそのまま私に向けられていて、私は耐えられずに軽く視線を外した。
弱っているときに優しくされれば誰だって好意を持ってしまう。
それがこんなに出来る人で格好よくて安心できる人ならなおのこと。
だけどその彼には一番大切にすべき女性がいる。
これ以上甘えるべきではない。