ハミルEN
19 ガタガタ合唱団
Jason MrazのI'm Yoursが響めく
廃倉庫が彼等のステージだ
ハミルEN合唱部
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アイプのギター、一本
ルルサの指揮棒が空を舞う
ガタガタの歌声が騒鳴する
「ちょっと、ストップストップ!」
ルルサが合唱を止めた
「おいおい、なんだよ。気持ち良く歌ってたのに」
バコタが不服を溢す
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バコタはゲームやCD、DVDに本などのレンタル及び販売を事業とする企業の倉庫管理の仕事をしていた
好調な業績が引っ張って、二回り体積の大きな倉庫へ移転した
このステージはバコタの会社が以前使用していた倉庫だった
現在もその企業の所有になっているが、物置状態になっていて粗稼働していないため2,500円を支払うことで自由に利用させてくれていた
「ちょっとマズいわね。ねえ、みんなどう思う?」
「いや、いいと思うけど、イエーイ」
マンバの山姥メイクは本日も絶好調だった
考え込むルルサ
「おいルルサ、何が不満なんだ」
アロヤが疑問を投げ掛ける
「いやいや、下手だし」
空気が凍りつく
皆、近くの人間同士で訝しげに顔を見合わせていた
「冗談やめろよ、気持ち良かったぞ」
高校教師のコココは腑に落ちない面持ちだった
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男性8名
女性9名
ギター1名
指揮者1名
計19名で構成されたハミルEN合唱部
そうなのだ
大半が音痴なのだ
指揮者の見立で歌えているのは、男性ではホストのスミカ、殺陣師のササラ、そばかすフェニックス侍。女性ではキャバ嬢メルメ、役所勤務のタスイ、ドレス着物屋テンの6名だった
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歌唱17名のうち11名は独勝手な歌を歌った
「ちょっといいか、ルルサ」
「はい、いいわよクルム」
仏壇・墓石販売業のクルムが口を開いた
「あのな。俺は自分が音痴なのは分かってるんだよ。みんなが音痴ってことも大凡分かってる」
ざわつく合唱団
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「お前みたいに音感のある人間には分からないかも知れないけどな。音痴の俺から言わせてみれば、まず十中八九、最初の音を外すんだ。音感がないから当然だ。で、ここからが真骨頂で、そのままその外した音を基準にして突っ走ることができるんだ。なんつうか、キーとか良くわからないんだよ。だから本物は音を外すとか外さないとかじゃなくて。歌い出しから歌い終わるまで1音も合わない。俺はずっとそれだったから分かるんだ。生粋のな」
ざわつく合唱団
(おい、何言ってんだ。クルムの奴。キーって鍵のことか?)
クルムが続ける
「だがな。俺はまだ・・アレだ。許してくれ」
「ハア。いいわよ、別に」
頭を擡げるルルサ
「気付いてない奴もいる」
「そうね。そうかもしれないわ。まあ、良いわ。ゆっくり練習していきましょう」
先の長い家唱を思い憚って、軽い笑みを浮かべてタクトを下げた
(俺って音痴なのか?俺じゃないよな)
「なあ、こういうのはどうだ」
「何よ、スミカ」
「メロディに乗ることができないんだったら、ハモれるんじゃないのか」
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6の主旋律と、
11のガタガタなうた
(主旋律ってなんだ。ハモリってどういうことだっけ)
「そうね?まあ、いいわ。じゃあ次、コブクロのエールいくわよ」
「ルルサ時間っちゃ」
バブルが左手首を掲げた
「あっ、時間ね。じゃあ今日は終わりにしましょう」
おつかれ、お疲れ様、またね
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ふと、倉庫のシャッターが上がる
「終わっちまったか」
「パンク来てくれたの」
「仕事が早く終わったから、間に合うかと思ったんだけど」
「そう、ごめん。借りれる時間決まってて」
「おう、じゃあ次だな」
「そうね、その犬は」
「ん?ああ、倉庫の前にいた犬だな。ボサボサだな」
「プーリーね」
「犬種か?」
「ええ、迷子かしら」
ルルサが屈んでプーリーを調べる
「迷子札ついてないわね」
「どうする?」
「私保健所届けてくるわ」
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2025年2月13日 木曜日
兄妹
「おう、マンバ」
「ガルオお兄ちゃん」
「帰るか」
「うん、そうだね」
兄妹仲良く家路を辿る
狭い歩道で兄は車道側を歩きながら
「なあ、マンバ。さっきクルムが言ってたけどさ」
「うん、なになに」
「音痴なの気付いてない奴がいるとかって、誰のことだ?」
「えっ、うそ?」
「えっ、なんか変なこと言ってるなと思って。でも何かな、胸騒ぎがするっていうか」
「お兄ちゃん、気づいてないの?」
「俺じゃないよな!俺、音痴か?」
「ごめんお兄ちゃん。私も音痴だけど。お兄ちゃんも音痴だよ」
「うそ、マジ?」
「自覚ないの?」
「俺音痴なの?」
「そうだよ」
「えー信じられねえ。そうなんだ」
「気付かなかった?」
「ああ、誰も教えてくれなかったなあ」
「すごいからね」
「じゃあ、練習しないとな」
「うん」
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落日染めるアスファルト。ギャル男と山姥の兄妹が行く。沈みゆく太陽が後方から背を押して人影は、前向きだった
ガルオはYELLを口遊んだ
兄の喉コブ,クロき肌の妹が見つめていた
ハミルEN合唱部
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