お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
エピローグ
 紅葉が視界を赤く染めそうな、十一月の終わり。
 空はすっきりと晴れて、拝殿前の白砂が目に眩しい。参道の石畳もつやつやと光、まさに夫婦を寿いでいるかのようだ。たくさんの人々が、私たちにちらちらと目を向けながら神社に参拝する。
 そんな中、私は緊張と期待で胸を高鳴らせながら、隣に立つ紋付き羽織袴(はかま)姿の嶺さんを見あげる。
 神社の厳かな雰囲気を背景にして立つ嶺さんの美麗さには声を失ってしまう。しばらくうっとりしていると、嶺さんもまた心ここにあらずといった様子で白無垢を着た私を見ていた。

「……嶺さん?」
「悪い、君があまりに綺麗で……少し、酔った」

 涼しげな目が気まずそうにまたたいてから、私を映してやわらかく溶ける。なんてことを言うの。
 気恥ずかしさで身じろぐと、衣擦れの音がしゃら、と耳を打った。

「頬が熱くなりました」
「紅葉のようにか」
「そうです。嶺さんのせいです」
「できるなら、俺以外には見せないでくれ」
「……そう、言われましても」

 口ごもってしまう。見せないでなんて、難題だ。なにしろ今日はこれから、親族だけでの挙式なのだ。見られるに決まっている。
 拝殿に向かう花嫁行列の後方には、すでに嶺さんのご親戚や昴も並んでいる。昴は両親の遺影を胸に抱えての参加だ。
 私たちの上には、魔を払うといわれる朱色の番傘が差しかけられている。

「こうやって、ひとつずつ目に見える形にしていくと……夫婦になるんだと実感します」
「夫婦は、いいものだな」

 嶺さんが左手の指輪を確認して、また私のほうを見る。

「知沙とだから、いいものだと思える。……ダメだな、キスしたくなってきた」
「ダメですよ。紅が落ちてしまいます。これからなんですから」

 花嫁行列の前方で、これから参進の儀を始めるという案内が聞こえる。だけど私も嶺さんもまだお互いを見ていた。

「それならこうしよう」

 手の甲に、嶺さんの手の甲が当たった。
 するりと手の甲がすり合わさって、そのまま手を取られる。
 ひょっとして、花嫁の手を取ってくれる母親の代わりなのかも。なんて思っていたら、その手の甲に唇が押し当てられた。

 その瞬間。
 多幸感が堰を切ったように胸の奥からあふれてきた。
 泣きそうになるのをこらえ、私はぎゅっと目をつむる。
 ふたたび開けた目には、私とおなじくらい……ひょっとすると私以上に、幸せそうな嶺さんが映っていた。


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