身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
14−5 エルウィンの反省
「全く……何って嫌な奴なんだ! 青白い顔で痩せぎすだし、まるで針金のような男だ! 何もかもが気に入らん!」
エルウィンは腕組みしながら忌々しげにデニスを乗せた馬車が走り去っていくのを見つめていた。
「エルウィン様……。私は気にしておりませんので、どうかあまりご立腹なさらないで下さい」
アリアドネが困った様子でエルウィンに声をかける。
「アリアドネッ! お前は悔しくないのかっ!? あんな言われ方を……し……て……」
すると何故か、それまで勢いづいていたエルウィンの言葉が尻すぼみになっていき……しまいには項垂れてしまった。
「エルウィン様? どうされたのですか?」
その様子に驚いたのはアリアドネだ。
それどころか周囲にいた騎士たちもエルウィンの豹変ぶりに驚いた。
「エルウィン様! どうしたのですか!?」
「大変だ! エルウィン様がおかしくなった!」
「何か悪いものでも食べたのですか!?」
「もしかして……食あたり?」
「うるさいっ! お前たちは邪魔だ! 離宮に戻っていろっ! 俺はアリアドネに話があるのだっ!」
エルウィンに怒鳴られた騎士達は、まるで蜘蛛の子を散らすように離宮の中へと走りこんでいった。
「本当に……あいつ等は煩くて敵わん」
ため息をつくエルウィンにアリアドネは遠慮がちに尋ねた。
「あの……エルウィン様。私にお話とは何でしょうか?」
「ああ。さっき俺はあの男に物凄く腹が立った。けれどその一方で、自分自身にも嫌気がさしたんだ」
「嫌気……?」
首を傾げるアリアドネにエルウィンは続けた。
「そうだ。俺は奴のことを少しも非難出来ない立場にあるってことを忘れていたんだ。自分の過去の行動を棚に上げ、奴を責めた。本当はそんな立場には無かったのに」
そしてエルウィンはアリアドネをじっと見つめると、突然頭を下げてきた。
「すまなかった。アリアドネ」
「え? エルウィン様?」
慌てるアリアドネにエルウィンは言葉を続けた。
「俺は遠方からやって来たお前に酷いことをしてしまったからだ」
「エルウィン様。その事ならもう大丈夫です。既に謝罪のお言葉なら頂いておりますから、どうか気になさらないで下さい」
自分よりもずっと背が高く……そして、誰よりも強いエルウィンが落ち込んで項垂れている姿を見るのはいたたまれなかった。
「しかし……」
尚も言いよどむエルウィンにアリアドネは首を振った。
「あの時、エルウィン様がお怒りになったのは尤もなのですから。何しろ妻はいらないと話されていたのに、勝手に押しかけた上に本物のミレーユお姉さまではなかったのですから」
そして俯くアリアドネ。
自分が卑しい妾腹の娘だから剣を向けられたのは仕方ないとアリアドネは思っていた。
むしろエルウィンを騙してしまったような罪悪感に加え、押しかけ女房みたいなマネを取ってしまった自分の行動を恥じる程だったのだ。
「いや、それは違うぞ! むしろ俺は城にやって来たのがお前の姉で無くて本当に良かったと思っている!」
その言葉にアリアドネは驚いて顔を上げた。
「え? エルウィン……様……?」
「い、いや! 今のは……そ、その言葉の綾だ! わ、忘れてくれ!」
そして慌てたように口元を腕で隠すエルウィン。
そのエルウィンの耳は……赤く染まっていた――
エルウィンは腕組みしながら忌々しげにデニスを乗せた馬車が走り去っていくのを見つめていた。
「エルウィン様……。私は気にしておりませんので、どうかあまりご立腹なさらないで下さい」
アリアドネが困った様子でエルウィンに声をかける。
「アリアドネッ! お前は悔しくないのかっ!? あんな言われ方を……し……て……」
すると何故か、それまで勢いづいていたエルウィンの言葉が尻すぼみになっていき……しまいには項垂れてしまった。
「エルウィン様? どうされたのですか?」
その様子に驚いたのはアリアドネだ。
それどころか周囲にいた騎士たちもエルウィンの豹変ぶりに驚いた。
「エルウィン様! どうしたのですか!?」
「大変だ! エルウィン様がおかしくなった!」
「何か悪いものでも食べたのですか!?」
「もしかして……食あたり?」
「うるさいっ! お前たちは邪魔だ! 離宮に戻っていろっ! 俺はアリアドネに話があるのだっ!」
エルウィンに怒鳴られた騎士達は、まるで蜘蛛の子を散らすように離宮の中へと走りこんでいった。
「本当に……あいつ等は煩くて敵わん」
ため息をつくエルウィンにアリアドネは遠慮がちに尋ねた。
「あの……エルウィン様。私にお話とは何でしょうか?」
「ああ。さっき俺はあの男に物凄く腹が立った。けれどその一方で、自分自身にも嫌気がさしたんだ」
「嫌気……?」
首を傾げるアリアドネにエルウィンは続けた。
「そうだ。俺は奴のことを少しも非難出来ない立場にあるってことを忘れていたんだ。自分の過去の行動を棚に上げ、奴を責めた。本当はそんな立場には無かったのに」
そしてエルウィンはアリアドネをじっと見つめると、突然頭を下げてきた。
「すまなかった。アリアドネ」
「え? エルウィン様?」
慌てるアリアドネにエルウィンは言葉を続けた。
「俺は遠方からやって来たお前に酷いことをしてしまったからだ」
「エルウィン様。その事ならもう大丈夫です。既に謝罪のお言葉なら頂いておりますから、どうか気になさらないで下さい」
自分よりもずっと背が高く……そして、誰よりも強いエルウィンが落ち込んで項垂れている姿を見るのはいたたまれなかった。
「しかし……」
尚も言いよどむエルウィンにアリアドネは首を振った。
「あの時、エルウィン様がお怒りになったのは尤もなのですから。何しろ妻はいらないと話されていたのに、勝手に押しかけた上に本物のミレーユお姉さまではなかったのですから」
そして俯くアリアドネ。
自分が卑しい妾腹の娘だから剣を向けられたのは仕方ないとアリアドネは思っていた。
むしろエルウィンを騙してしまったような罪悪感に加え、押しかけ女房みたいなマネを取ってしまった自分の行動を恥じる程だったのだ。
「いや、それは違うぞ! むしろ俺は城にやって来たのがお前の姉で無くて本当に良かったと思っている!」
その言葉にアリアドネは驚いて顔を上げた。
「え? エルウィン……様……?」
「い、いや! 今のは……そ、その言葉の綾だ! わ、忘れてくれ!」
そして慌てたように口元を腕で隠すエルウィン。
そのエルウィンの耳は……赤く染まっていた――