堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
 今夜はなにか手の込んだ料理でも作って気を紛らわせようか。
 だけど、ひとりで食べるのは少しさみしいな。
 仕事を終えた私は、そんなことをぼんやりと考えながらエレベーターを降りて一階にある入退館ゲートを抜ける。

「茅田さん!」

 ビルを出て歩いている最中に呼び止められたので振り向いたら、そこには思いもよらない人物が立っていた。

「ふ、副社長、お疲れ様です」
「お疲れ様」

 驚きつつも咄嗟に深くおじぎをしてあいさつをすると、副社長はいつものようにやわらかい笑みをたたえていた。

「この前はありがとう」
「……え?」
「パーティー」
「あ、こちらこそ豪華な客室まで用意していただいてありがとうございました」

 羽瀬川先生はあのとき『控室として使う部屋がほしいと伝えたら、勇気がここを手配したんだ』と言っていた。
 東京翠雲グランドホテルのエグゼクティブスイートなんて、庶民の私は二度と泊まることはないだろう。
 ラグジュアリーな部屋で好きな人と一緒に過ごせて、素敵な思い出ができたのだから、副社長には感謝しかない。きちんとお礼を言っておかなければ。

「あの部屋、夜景が綺麗だったでしょ」
「はい。とっても!」
「へぇ、亜蘭とそういう雰囲気になったんだ」

 爽やかな笑みの裏にある意味深な表情が透けて見えた途端、私の顔が一気に熱くなってきた。
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