彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

エピローグ-side.瀬名-


 休日の朝。

 キッチンでコーヒーを淹れていると、リビングから小さな声が聞こえた。

 「……いい匂い」

 振り返ると、ひよりが眠そうな顔のままソファに座っていた。

 寝起きで少し乱れた髪。

 ぼんやりした目。

 そんな姿すら可愛く見えてしまう自分は、相当重症だと思う。

 「飲む?」

 「飲みます」

 マグカップを二つ持ってソファへ向かく。

 ひよりは受け取ると、恐る恐るみたいにコーヒーを一口飲んだ。

 次の瞬間、わかりやすく眉が寄る。

 「……苦いです」

 思わず吹き出した。

 「そんな顔する?」

 「だって苦いんですもん」

 「……苦手だったんだ」

 「ブラックは、苦手です」

 即答だった。

 ミルクを冷蔵庫に取りに行き、ひよりのマグカップへ注いでいると、ふと昔の記憶が蘇る。

 大学時代。

 カフェで向かいに座っていたひより。

 いつも俺と同じブラックコーヒーを頼んでいた。

 あの頃は、コーヒー好きな共通点に浮かれていたくらいだ。

 でも今、ようやく気づく。

 あれは、たぶん。無理してたんだな。

 苦いのを我慢しながら飲んでたんだろう。

 俺に合わせて……?

 想像した瞬間、可愛すぎて笑ってしまった。

 「……どうしたんですか?」

 不思議そうに見上げてくる。

 「学生時代のひより思い出してた」

 「え、どんな感じだったんですか?」

 身を乗り出すみたいに聞かれて、また笑う。

 「秘密」

 「えぇ、気になります」

 「ダメ」

 そう言いながら、ひよりの頭を軽く撫でる。

 「俺だけの大事な思い出だから」

 ひよりが少しだけ悔しそうに唇を尖らせる。

 その顔すら愛しい。

 思い出せない俺たちの過去は、まだたくさんある。

 でも、それでいいと思った。

 今、ひよりは俺の隣で笑ってる。

 それだけで十分だ。

 「瑞貴さん」

 「ん?」

 「……そんなに見ないでください」

 「無理」

 即答すると、ひよりが困ったみたいに笑った。

 窓から差し込む朝の光が、柔らかく部屋を包み込んでいる。

 この先もきっと、

 こういう何気ない幸せを、何度も積み重ねていくんだろう。

 そんな未来を思いながら、俺はそっと、ひよりを抱き寄せた。




fin.

< 190 / 190 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:129

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

よそ見してんじゃねーよ。〜前腕フェチ看護師が、クールな外科医の独占愛に捕まりました〜

総文字数/8,857

恋愛(ラブコメ)22ページ

超短編!フェチから始まる溺愛コンテストエントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
クールなドクター 須波 悠真 × 前腕フェチな看護師 白石 みなみ
シンデレラ・ウェディング

総文字数/11,701

恋愛(純愛)24ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「オレが王子様になって迎えに来るよ。 絶対、約束する。だから待ってて」 黒田莉央、もうすぐ20歳。 今でも王子様が迎えに来てくれるのを 待っています。 2023.05.06♡完結&公開
狼とわたあめ

総文字数/7,755

恋愛(キケン・ダーク)17ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「俺に愛される覚悟、ある?」 そう言ったのは、 この街で知らない人はいない "狼"と呼ばれる極上の男。 これは夢じゃなかったんですか・・・!? 2023.06.22♡完結&公開

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop