結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 契約したあと、「セキュリティのため、カードキーの受け渡しは、引越当日である土曜の午前八時」と聞いていた。無理だと思いつつ、お礼の返事とともに、約束よりも早く鍵を受け取れないか尋ねてみた。

 しばらく待つと『鍵の受け渡しはできます』との返事が来たので、思わずソファから立ち上がってしまった。
 もう十時を過ぎていたので、管理会社ではなく、八木沢さんが直接渡してくれるそう。
 遅い時間に申し訳ないけれど、早く家を出たい。
 寝室にいる真臣には声をかけず、黙って荷物をまとめて新宿に向かった。




 新宿という街は、昼と夜で全く違う表情を見せる。
 昼間は通勤や通学で人口が増え、その人達が家に帰ると、夜に生きる人たちが集まり、雑多で眩しい街になる。アジア最大の歓楽街には観光客も多い。

 比較的静かなエリアで生活してきたので、新宿駅周辺の夜の明るさには怯んでしまう。でも、明日からここが通勤路。

 私がマンションに到着するのを待っていてくれたらしく、八木沢さんはスーツ姿のまま、一階エントランスまで降りてきてくれた。なお、オーナーである八木沢さんは最上階に住む「雲上人」である。

「こんな時間に、本当に申し訳ないです」
「僕もさっきまで仕事だったので、それは別にいいのですが……大丈夫ですか?」

 多分、真臣のことかなと思ったので、簡単に説明をした。

 私のほうから別れ話をして、もう家にいたくないから出てきたが、私がいなくなったことに気づいた彼から、『どこにいるの?』『やり直したい』『もう一度チャンスが欲しい』『帰っておいで』と立て続けに連絡がきていること。

 出てきて正解だった。何をされるかわからない。もう怖い。



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