失くしたあなたの物語、ここにあります
「葵沙代子って言います。いつも農園を手伝ってる方だよね。話には聞かせてもらってます。よろしくね」
「私も聞いてます。銀一おじさんの娘さんなんですよね?」
「父を知ってるの?」
「おじさんは農園の常連さんだから。志貴くんから聞いてたけど、本当にめちゃくちゃお綺麗ですね」

 まじまじと顔を眺めてきたかと思うと、まっすぐな目で彼女はそう言う。

「えっと……、そんなことないと思うけど……」

 綺麗だって天草さんが言っていたと聞かされたら、どういうわけか動揺して、口ごもってしまった。

「俺がうわさしてたみたいな言い方はしないでほしいな」

 天草さんが気まずげに苦笑いする。

「えー、私が綺麗な人? って聞いたら、うんって言ってたのは、志貴くんでしょー」

 うららは不服そうに言い返す。

 なんだ、そんな程度の会話だったのか。真相を聞いたら拍子抜けだ。そういうことなら、誰だって肯定するだろう。

「夏休みの間はずっとここでアルバイトするの?」

 気持ちを切り替えて尋ねると、うららはよくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張る。

「将来、志貴くんみたいにお店を持ちたいんです。だから毎年、長期休みは天草のおばさんからスイーツ作り習ってるんですよ」

 彼女はてきぱきと答えると、将来の展望を語った。

「じゃあ、アルバイトがメインっていうよりは……」
「はい。習い事しながら、おこづかいもらってる感じです。沙代子さんはパティシエなんですよね? 天草のおばさんが沙代子さんから習った方がいいって言ってて。ぜひとも、この夏はスイーツ作り教えてください」
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