🍞 ブレッド 🍞 ~フィレンツェとニューヨークとパンと恋と夢と未来の物語~【新編集版】
 顔を上げると、ギターの調べが聞こえてきた。
 世界的な大ヒットになった名曲、『Time to say goodbye』だった。
 弾いていたのは女性で、彼女の前にはギターケースが置かれ、開いた蓋の中にCDがいくつか置かれていた。
 1枚を取ってタイトルを見ると、『Guitar sound of Florence…』と記されていた。
 奏者の名前は『Justyna Maria Janiczak』だった。
「ユスティナ・マリア」と呟いてハッとした。

 マリアが弾くTime to say goodbye……、

 フローラの目から涙が零れ落ちた。
 それは、たった2か月しか生きられなかった赤ちゃんへの哀悼からくるものだった。

 なんて惨いことを……、

 CDを握る手が小刻みに震え始めたが、周りから拍手が起こって演奏が終わったことに気がついた。
 手に持っていたCDを脇に挟んで15ユーロをギターケースの中に置くと、ギタリストは口を開きかけたが、何も言わずに静かに頭を下げて『禁じられた遊び』を弾き始めた。

< 73 / 169 >

この作品をシェア

pagetop