このドクターに恋してる
 薄暗い中で、宇部先生と目をしっかりと合わせた。宇部先生はいつものニコニコ顔ではなくて、真剣な表情をしている。
 それにどことなく緊張しているようにも見えた。
 私は思わず姿勢を正した。

「今度、二人でどこかお出掛けしない? 食事するとかでもいいし、どうかな?」
「それは、どういう意味でのお誘いですか?」
「陽菜ちゃんのことがすごく気になっていて、もっと知りたいと思っているんだ。陽菜ちゃんにも俺のことを知ってもらいたいからデートに誘ってる」
「デート、ですか……私と?」
「うん」

 デートと明確に言われて、私は戸惑った。あの宇部先生が私とデートしたいと言っている……。
 嘘じゃないよね?
 私は自分の頬を引っ張った。宇部先生が目を丸くする。

「どうしたの? 急に」
「信じられなくって、夢なんじゃないかなって。だって、私には手の届かない人だから、ファンでいられるだけで満足していたんですよ? それなのにデートだなんて、嘘じゃないですよね?」
「手が届かないってことはないでしょ。ほら、届いた」

 宇部先生は笑いながら、私の手を取った。優しく握る先生の手は、大きくて温かい。
 不意打ちな行動をされて、私の顔は急速に熱くなった。
 宇部先生の手と私の手が繋がっている……。
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