1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
こちらに顔を向けた紗彩が、ハッとしたように立ち上がる。
「白川さん」
「お母さん、大丈夫?」
「わざわざありがとうございます」
それだけ言うと、力なく椅子に座り込んでしまった。
「今、骨折の手術中で、ほかにも悪いところがあるらしくて」
「お母さん、なにか持病でもあったの」
彼女の横に腰をおろしながら、話しかけてみる。そばで見ると、顔色が悪いのが気になった。
「いえ、風邪もひかないくらい元気でした。あ、でも……」
紗彩がポツリポツリと話すには、このところ食欲が落ちていたらしい。
「大丈夫だっていうのを信じた私がいけなかったんです」
「君のせいじゃないよ」
そんなありふれた言葉は、単なる慰めとしか受け取れないだろう。
それでも結都は少しでも安心させたいと思ったのだ。
「私が縁談を断ったりしたから、会社のことでストレスがたまっていたんだと思います」
キュッと眉を寄せて苦しそうに呟いた言葉を聞き流すことはできなかった。
「縁談⁉ 君の?」
「ホテルでトラブッた人がお見合いの相手だったんです」
「あの時の厄介な男が、見合い相手?」
「お断りしたから、あんなに絡まれたんだと思います」
あの程度の男なら断って正解だと思ったが、彼女にとっては後悔でしかないらしい。
「私があの人との縁談を受けてたら、お母さんはこんなことに」
そう言いかけて、悔しさに唇を嚙みしめているのが痛々しくて見ていられない。
「強く噛んだら、キズになる」
血がにじむからと、やめさせようと彼女の頬に触れたらピクリと細い肩が揺れた。