騙すなら墓場まで
覚めても悪夢



 それから数日は何事もなく過ごした。つまり、アパートとさくら園を行き来するだけの静かな日々だった。

 トイレは共同、お風呂もない。だけど雨風をしのげるなら十分。家電は最低限でテレビさえなかった。

 だから、気づくのに遅れた。


「坂崎さん、聞いてないの?」


 出勤して玄関口の掃除に向かおうとして、施設長に呼び止められた。


「何がですか?」

「会社、倒産したって」


 施設長は青を通り越して白い顔で、私は逆に心配になった。


「会社? ここのですか?」

「違う、坂崎さんとこの派遣会社」

「え……」


 施設長はスマートフォンの画面を見せてくれた。そこには登録している会社の写真と一緒に、脱税と粉飾決算で倒産したと見出しが載っていた。

 自分のスマートフォンがタイミング良く震えた。ポケットから慌てて引っ張り出すと、案の定、会社からだった。


「もしもし」

「ああ、坂崎さん。ニュース見ました?」

「はい、今確認しました」

「その、申し訳ないんだけど全員が解雇になる」


 向こうでは誰かが走り回る振動や電話の音が伝わってくる。



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