騙すなら墓場まで
見上げた先には制服に身を包んだ警察官の方がいた。目に沁みるような青いシャツと、伸びた背筋がやたらと眩しかった。
「……いえ、何でもありません」
初老の男性──このときまで初老だとさえ気づかなかった──はそう言い残し、ゆらりと陽炎のように去っていった。
とたんに周囲の環境音が耳に飛び込んでくる。今まで別世界にいたんじゃないかと、オカルトじみた思考に陥りそうになる。
「大丈夫でしたか?」
彼は気遣うように中腰になって視線を合わせてくれた。キラキラした瞳は純粋そうで、一目で良い人なのだとわかった。
「大丈夫です、ありがとうございました」
「こちらにはどのようなご用件で?」
「……夫に、お弁当を届けに来たんです」
夫。
そう口にするときに、目を逸らして通路の奥を見た。向こうから伊月さんが出てくるとも限らないのに。
「そうだったんですか、羨ましいなぁ」
彼は目を細めて笑う。その笑顔に何となく見覚えがあるような気がして、ついじっと見つめてしまった。