騙すなら墓場まで



 伊月さんは彼の背が見えなくなるまで仁王立ちで睨みつけていた。背中だけで人の憤りってわかるものなんだな……と呆けていた私は、我に返って改めてバッグを渡そうとした。


「美節さん」

「はい……」


 もう冷たさもない声が、後ろを向いたままの伊月さんから発された。それが余計に恐ろしい。


「今聞いたことは全部忘れてくれ」

「忘れる?」

「そうだ、難しいことじゃないだろう」


 相変わらず背中しか見せてくれないその人に、私は簡単な交渉を持ちかけてみることにした。


「ではこれを受け取ってください」


 伊月さんがやっと振り向いた。整った顔立ちからはどんな感情も読み取れなくて、すぐに挫けそうになる。

 それでも強気な姿勢を崩さず、もう一度バッグを突きつけてみせた。


「忘れる代わりに受け取ってください」

「……」

「難しいことじゃないでしょう」


 沈黙が続く。


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