来世に期待します〜出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで〜
【幸せな人生を(Happy End】


「る、るる、ルーシア、私、大丈夫かしら!?」
「大丈夫、とっても綺麗ですわよ」

 ついにやってきた。
 私と、そしてオズ様の結婚式。

 トレンシスの町の教会で。
 参列者は聖女と筆頭公爵の結婚とあって、やはりこじんまりとはいかなかった。
 この国の王太子殿下とルヴィ王女を筆頭に、他国の王侯貴族、この国の貴族、そして一般席にはトレンシアの町の人々が参列する。

 そのためだけに王家(主にルヴィ王女)はお金を出してこのトレンシスの教会をたくさんの人が入れるように改築したのだ。
 ファンクラブの力、恐るべし。

「大丈夫、僕らもついてるし」
「そうそう。私達が一緒にバージンロード歩いてあげるんだから大丈夫よ。変な奴がいたら私がつっついてやるんだから」

 バージンロードを一緒に歩く父のいない私に、父の代わりに人型になって一緒に歩いてくれることになったまる子とカンタロウ。
 二人がいれば確かに何があっても大丈夫かもしれない、と少しだけ心が軽くなる。

「では、私はそろそろ行ってあなたを待っていますわね。お父様とお母様のところで」
 平民となっているルーシア様の席は、ブロディジィ公爵夫妻の間。
 それはブロディジィ公爵夫妻たっての申し出だった。

『世間の目から守るために孤児院へやったが、ルーシアは変わらず自分たちの愛する娘である』

 魔力枯らしであっても後ろ指差されることのない貴族社会にしたい。
 これはその一歩だと、公爵は言った。

 ルーシアを再び公爵家へ戻すことも考えていたようだけれど、それはルーシア本人が断ったのだそうだ。
 彼女はこのトレンシスで、自分らしく生きたいという選択をした。
 それが、ルーシアの出した答え。

 彼女たちはこれからも別々の場所で暮らしながら、別々の人生を歩む。
 だけど心はいつも繋がっているし、いつでも会うことができる。
 彼女たちの出した答えが、その繋がりを強くしたのだから。

「ほれ、私達も行くわよ」
「お手をどうぞ。僕らのプリンセス」
 私は私に向けて微笑む彼らににっこりと笑顔を返すと、二人の手を取り、そして大聖堂へと足を進めた。


 ***


 大きな木の扉がゆっくりと開く。

 目の前にはまず見知ったトレンシスの人々。
 その奥、大聖堂の前の方の列には、王侯貴族勢ぞろい。
 うぅ、吐きそう。

 そしてその最奥では、真っ白い正装姿の硬い表情をしたオズ様が私を待っている。

「ふふっ」
 オズ様らしい表情に、吐きそうだったものが消え去って思わず笑みがこぼれる。

「ありゃー、オズ、緊張してるね」
「ビジュアル良いのに表情硬すぎでしょ……」
 まる子とカンタロウが呆れたようにつぶやく。

 こんなに非日常の、夢のような空間なのに、なんだかいつもの光景に思えてきて、肩の力がふっと抜けた。

 私は微笑を浮かべながら、一歩一歩、少しこわばった顔のオズ様の元へと足を進めていく。
 早くあなたの元へ行きたい。
 心だけはそう逸《はや》るけれど、長く美しいドレスの裾を踏まないように気を付けながら、ゆっくり、ゆっくりと彼を目指す。

「……セシリア」
「オズ様。お待たせしました」

 たどり着いた私の手をまる子とカンタロウの手から受け取り、オズ様が安心したようにわずかに表情をやわらげた。

「セシリア……その……綺麗だ」
「オズ様……。ありがとう、ございます……っ」

 真剣な瞳で見つめられながらそんなことを言うのは反則だと思う。
 恥ずかしくて直視できない……!!
 私が視線を泳がせているうちにも、神父様が祝いの言葉を述べていく。
 そしてつないだままの私たちの手に、神父様が手をかざすと、薄緑色の光が私たちの手へ注がれた。

「お二人のこれからの人生への祝福の魔法です。今回はもうお一人──」
「へ?」

 神父様が右端へ視線を送ると、そこには優しく微笑み私たちを見守るお師匠様の姿が。

「師匠?」
「お師匠様、何で……?」

 お師匠様には敢えて招待状を出さなかった。
 お師匠様にとって人間は、実の親を殺した種族だから。

「可愛い愛弟子二人の結婚ですからね。そりゃ行かないわけにはいかないでしょう」
 そういたずらっぽく笑ってから、お師匠様は私たちに両手をかざした。
 そこから出る淡く白い光が私たちをすっぽりと包み込む。

「何があっても、お互いを思いあい、そして糸が縺れたならば言葉を交わし合いなさい。きっとその絆はより深くなる。あなた達には幸せな未来が待っています。二人に、初代聖女フィーアリアの加護を──」

 初代聖女様……。
 お師匠様の育ての親である方の加護は温かく、私たちの中にすっと馴染んで入っていった。

「さぁ加護をまとった我が愛弟子たちよ。愛の証の口づけを」

「く!?」
「ち!?」

 この世界の結婚式は前世でのものとそう変わりはない。
 が、前世の結婚式と違って参列者の前で口づけるなんていう風習はない。
 だから気を抜いてた部分があったのに……!!

「ほら、早くしなければせっかくの加護が馴染み切らずに逃げてしまいます。ほら、早く早く」
「っ、このジジィ……!!」

 オズ様、お口が悪くなってます……!!
 せっかくの加護。
 私はオズ様なら、と思うけれど、オズ様が気乗りしないならば仕方がない。
 そう思っていた刹那──。

「セシリア」
「はい?」
「俺は、生涯君だけを愛する。一緒に、幸せな未来を築かせてくれ」
「!! ……はいっ……!!」

 オズ様の綺麗なお顔がゆっくりと近づき、そして私の唇に暖かいぬくもりが重なった。
 と同時に、加護の暖かさが全身をめぐっていくのがわかって、会場からは大きな拍手で埋め尽くされた。


 恥ずかしさはある。
 だけど幸せの方が圧倒的に勝っていて、唇が離れてから私はオズ様に微笑んだ。

 穏やかな時間が流れたその時、参列席から「こほんっ」と咳払いが聞こえた。
「さぁて!! 式も滞りなく終わったことですし……」
 そういって立ち上がったルヴィ王女に、私たちは顔を見合わせて首をかしげる。


「皆様!! お外をご覧くださいませ!!」
「?」

 ルヴィ王女の合図で、大聖堂の正面に引かれたカーテンが一斉に開かれ、まぶしい外の光が入り込み裏庭の草木が大窓に映った。

 そしてその庭に堂々と鎮座しているのは、大きな白い石で作られた、私とオズ様の石像──。
 オズ様もきっと私と同じことを感じたことだろう。

 まるで公爵家の森の中にある、前公爵夫妻──オズ様のご両親の石像のようだ、と。

 それをこんな、教会の裏に、だなんて……。

「大規模な改修作業をするとは聞いていたが……まさかこんなものまで……」
 オズ様が頭を抱えてしまった。
 そんなこともお構いなしに、ルヴィ王女は自信たっぷりに胸を張る。

「王家が総力を結集させて作らせましたの!! このトレンシスの教会を大きく改修するついでに、聖女セシリアとオズの仲睦まじい像を作り、この町を守るシンボルにせねばと思いまして。後世まで語り継がれる恋物語……。そしてセシリアの素晴らしき力……!! これぞファンクラブの集大成ですわ!!」

 ファンクラブ、やっぱり恐るべし……。

 作るつもりのなかった石像が思わぬところで作られてしまったけれど、嫌ではない。
 私も。
 眉間に皺を寄せているけれどオズ様もきっとそう。

「ふふ。オズ様」
「なんだ?」
「この石像のように、いつまでも寄り添いあって生きていきましょうね」

 皆に等しくいつか訪れる、その日まで。
 私はきっとこれからも、いくつもの幸せな記憶を作っていく。

 そのひとつひとつが、きっと私のこれまでの人生を温めてくれる。
 悲しいこともあるだろう。
 だけど拾い集めたたくさんの幸せが、私のこれからの人生を優しく包んでくれる。

 オズ様が隣にいて、まる子とカンタロウがいて、ドルト先生やルーシア、それに町の皆がいる今の人生を大切にして、私これからも生きていく。
 この、苦しくも愛おしく、優しい世界を──。


 END


 


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