悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
「目が赤いですね、どうぞお冷やしください。軽くフルーツは召し上がれそうでしょうか?」
「あ、ありがとうございます」
「その後はどうぞひと眠りされてください」

 気遣ってそう言ってくれた彼女に私はゆっくり首を振る。
 娼館では、勉強のために朝方までお姉様たちの行為を覗き見ていたためこの程度の夜更かしや徹夜には慣れていた。
 
「私は平気です。それよりもしよければまた庭園を見に行ってもいいですか?」
「はい、もちろんです」

“うわ、シグネさんってこんな顔で笑うんだ”

 表情を変えず淡々と仕事をこなしているように見えた彼女のその笑顔は、どこかアドルフさんのあの温和な笑みを彷彿とさせて私も釣られて頬が緩んだのだった。


 用意して貰ったフルーツを食べ、昨日ミリーが案内してくれたあの庭園へと足を運ぶ。
 専門の使用人がいる訳ではなく、手の空いた誰かが自発的に整えているというその庭園はとても丁寧に作られていて、私は時間を忘れて見入っていた。

 私があまりにも庭園を気に入っていたからか、この家の主人でもなんでもないのにお昼を庭園の東屋に用意してくれたほどである。
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