悪徳公爵の閨係~バツ5なのに童貞だなんて聞いてませんッ!~
 特に持っていきたい私物もなかったので、いつも使っているショールだけ肩に羽織り、そのまま馬車へ乗り込む。

“まさかこんなことになるなんてね”

 朝起きた時は、いつか来るデビューの日のための勉強に励むつもりだったのに、今は突然訪れたデビュー戦のためにあの悪徳公爵の元へ向かっているだなんて思いもしなかった。

「相手が貴族令嬢じゃないからって酷いことをされないといいのだけれど……」

 妻となった貴族令嬢たちですら泣いて詳しい事情を話さないのだ。
 娼婦の私相手だともっと乱暴なことをされる可能性もあるだろう。
 
 だが、そんな言葉を思わずポツリと漏らし焦って口を閉じる。
 まだデビュー前で経験がないとはいえ私はプロだし、それにノースィルの娼婦として買われたのだ。
 金銭の取引が成立している以上、仕事には誇りをもって全力で取り組むべきものだから。

「詳しい説明はルミール様からあるでしょう」
「はい」

 向かいに座っている、使いで来た男性にそう告げられ私は素直に頷く。

“ルミール様ってことは、やっぱり私を買ったのはルミール・ユクル公爵本人ということなのね”
 
 期限は無期限。
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