さようなら
桜とおはぎ
「お母さん、荷物積み終わったから

行くよ」


「ちょっと待って…


お財布がなくて…」


「いいよ。私が探すから

お母さんは出る準備してて」


母は昔と変わってない。


家を出る間近になって、

いつも財布がないと騒ぐ。


でも一つだけ昔と違う所があった…


昔のようにキビキビと財布を

探せないという事…


きっと昔の私だったら、

「もう~!お母さんてば

いつも財布なくすんだから~!」

って、反抗した口調で

言っていたと思う。



「お母さん、お財布あったよ」


「ありがとう」




私と母はタクシーに乗った。


「駅までお願いします」


「了解しました~」


白髪の運転手さんは明るく言った。


母はその運転手さんの返事に

クスクスと笑った。


「いや~」


運転手さんは母が笑ったのを見て、


少し恥ずかしそうに

頭を軽く掻いた。


「いや~、笑われちゃいましたね…


声もでかいしすみません…」


「笑ってしまってごめんなさい…


元気がいいから、何か楽しく

なってきちゃってね」


母が笑顔で言った。


「元気だけが取り柄でしてね。


これからどちらへ?」


「鎌倉です」


「え!? 鎌倉ですか~。


実は私の息子も鎌倉に

住んでるんですよ~」


「そうなんですか!?」


「ええ、なんか料理の修行だか

しらないけど…


最近は連絡もあまりよこさないし、

帰ってもきませんよ。


ちゃんと働いてるのかどうか…」


「そうなんですか…」




母と私はこれから新幹線で

東京に行き、そこから

おばさんの車で

母の実家がある鎌倉へ行く。




「お母さん、寒くない?」


「大丈夫よ」



私たちの会話を聞いていた

運転手さんが、何も言わずに

暖房を少し強くしてくれた。






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