男性不信のお姫様と女性不信の王子様はカボチャ姫を愛す
カボチャ姫とお父様
ウェンスティール国に帰って来て数週間が経った。
今日は気持ちいいお天気ね。
ガーデンチェアに座っていると、心地の良い風が吹いて、優しい花の香りに包まれとても癒されるはずなのに……なのに今は苦しくて切ない。
私の大好きなこの庭園で一緒に過ごしたアレクシスの姿を思い出してしまう。
私ったら……いつまでもメソメソしていてはダメね。
ウェンスティール国の王女としてしっかりしなくっちゃっ!!
恋焦がれている場合じゃないわ。
もーー恋だな愛だの懲り懲りよ!!
そうよッ!!!!
一生誰とも結婚なんてしないってお父様にこれから直談判しに行きましょう!!
♡♡
ーーコンコン、、
「お父様、エレノアです」
「エ、エレノアかっ!? 入ってくれ」
ーーガチャッ、、
「失礼いたします」
相変わらずお父様の執務机の上は書類の山だらけね……。
お姿が書類の山で見えないじゃないの。
「エレノアが私の執務室へ自ら足を運ぶとは、珍しいことがあるものだ!! 一体どうしたんだ?」
「話したいことがあるんです……」
「ん…… なんだ? どうした?」
山積みの書類から私が見えるように、お父様は腰掛けていた椅子から立ち上がった。
滅多なことでは自分のもとに寄りつこうとしない娘に非常に驚いたご様子で。
ーーようやく姿が見えたわ。
こんなことを言ったらお父様……きっと固まっちゃうわよね?
まぁ、いいわよ。
固まらせておけばっ!!
「私…… 一生誰とも結婚しません!! ですからこれからは縁談は全てお断り下さい!!」
「………。」
やっぱり固まってる。
「ど、どうしたんだ? エレノアはアレクシスに好いてもらっていただろう? 私もローズもそのつもりだったのだが……」
「いえ、好かれてなどいません。アレクシス王子には特別な方がいらっしゃるんです!! それなのに私なんかと縁談させられて…… アレクシス王子が気の毒ではありませんか!!」
「そんなはずはないのだが…… アレクシスにはそういった女性はいないはずだ」
ーーいたのよっ!!リタ嬢がッ!!
「私はアレクシスがことごとく令嬢達との縁談を拒み続けていて、ハリー国王が困っていることを知り、それならば我が娘エレノアも縁談を拒み続けているから、一層のこと縁談したがらない者同士を引き合わせてみようかということになって今に至るのだが……」
なんて軽いノリで縁談させられていたのかしらッ!!!!
人の気も知らないで……
「アレクシスから直接愛する女性がいると聞いたのか?」
「…… いえ、直接は聞いてませんが…… 二人は特別な仲なんだと聞きました!!」
リタ様がそう言っていたし……アレクシスだって……きっと……
「エレノアはアレクシスから言われた訳でもなく、他の者がそう言ったからという理由でアレクシスを疑うのか?」
お父様が私を咎めるような目で見据える。
ムッ、、
何よッ!!!!
ご自分は好き勝手してきてるくせに!!
私に説教するおつもりかしら!?
「そんなこと…… 本人に直接聞かなくてもわかります!!」
「…… 私はエレノアがアレクシスと結婚したくないと言うならば、それでも構わんさっ。だが本当に後悔しないのか?」
後悔……それならお父様はどうなのよッ!!
マリアと不貞していた事を後悔しているのかしら?
こんなの黙っていられないわっ!!
長年の鬱憤をここでお父様にぶち撒けてやるーー!!!!
「お父様は後悔していることはないのですか?」
今まで誰にも聞くことができなかった。
誰にも言うこともできなかった。
「後悔…… ないなっ!! 私には後悔していることなどないっ!!」
全く躊躇う事もなくお父様は私の問いに答えた。
予想だにしなかったお父様の言葉に沸々と怒りが沸き始める。
せめて……せめて後悔していると言って欲しかった。
嘘でもいいから……
また大きな石が私の胸にドスーーンと、落ちてきたように胸が苦しい。
もう私の胸に納めていることはできないわ……
「お、お父様は…… マリアとのことを…… 後悔はしていないのですか?」
「マリア……? マリアとのこととは?」
何をしらばっくれているのっ、お父様!!!!
そんなことまで娘の口から言わせるおつもりなの……
それでしたらお望み通りに言わせていただきますッ!!
「お父様がマリアと不貞していたことです!! それは後悔していないと言うのですか!!」
「んっ!? マリアとの不貞とは…… どういうことだ?」
この期に及んでまだそんなことを……
「私はお父様とマリアのことを知っているんです!! 何故マリアが突然いなくなったのかをッ!!」
これ以上私はお父様に誤魔化されてなるものですか、という勢いで声を荒げた。
そんな娘の姿を意に介さずお父様が平然とした態度で話し出す。
「何を勘違いしているのかは知らんが…… マリアは現在、故郷で子を育てながら幸せな家庭を築いているが……」
へっ……!?
「ですが……マリアはお父様と……お父様とマリアは……?」
「マリアは私の乳母だったジョセフィーヌの娘だ。それ故よく気には掛けていたが…… だからといってマリアと私に何かあるはずないだろう。私にはローズがいるんだぞっ!!」
そ、そんなはずは……あの時たしかに私は聞いたのよ……
「それは誰から聞いた話かは知らぬが…… 私はエレノアに誓ってローズを裏切るようなことは一切していない!!」
「では…… マリアは何故、なぜ突然城からいなくなったのですか?」
「マリアは幼馴染でもある婚約者の子を身籠ったから故郷へ帰ったんだ」
マリアに婚約者がいたなんて……知らなかった。
「聞けば悪阻がひどく体調が優れないと……。婚約者との子といえども結婚する前に子ができてしまい、体裁が悪いので周りに知られたくないとのことだった。だから私とローズ以外に知る者がいなかったのだ。ローズがマリアの体を案じ、婚約者とジョセフィーヌの待つ故郷へと直ちに帰らせたんだ」
そ、そんな……私の勝手な思い込みだったの……
私……ずっと……ずっと……お父様を……
「まぁ、私にそのような噂話が流れるのは致し方ない。私はローズと出会うまでは多くの令嬢と遊んでいたからな……。だが誰にも心を許したことはなかった。ローズに出会って真実の愛を知ったんだ。それに私は誰とも深い仲にはなっていない!! 私が本当に噂通りの男だとしたら、今頃私の子はジョセフとエレノア以外にもいるであろう。そうは思わんか?」
「そ、それは……」
あの時は小さかったし、ショックのあまりそこまで考えが及ばなかったけれど……よく考えてみれば確かにそうだわ……
それじゃあ私は……人伝いに聞いた話を鵜呑みにしてお父様を信じれずにいたということ……
「マリアからエレノア宛に手紙が送られていたはずだが……」
「届いていました。でも私はマリアがお母様を裏切っていたと思い込んでいたので…… 目も通さずに捨ててしまいました……」
ーーなんてことを……
「私…… 私…… ひどいことを……」
「そう思うのなら、エレノアからマリアに手紙を送ってやればいいではないか」
「はぃ……」
これまで私は他の人の言うことを信じ、大切な人のことを知ろうともしないまま勝手に疑って、信じることから逃げてたんだわ……
「もしかして…… お兄様も…… 私の思っているような女性に奔放な方ではないのですか?」
「エレノアにもわかるだろうが…… 奴はよく人を見てる。自分の妃に迎える相手をしっかりと見定めたいから、多くの令嬢と交流を持っているんだろう。まぁ、奴が色男だということは否定しないが…… 自分の立場をよく理解しているよ」
ーーお兄様……
「ジョセフも私の息子だ!! 私がローズに出会ったように最愛の女性が現れるのを待っているんだろう」
お兄様はいつも私のことを気にかけてくれていたのに……
私ったら……嫌いだなんて言ってしまって……ちゃんと大好きだって伝えないと……。
それに……お父様も……
「私はお父様を信じることができなかったんです。ごめんなさい。私……」
「わかってくれたのならそれで良い!! ただ一つこれを教訓にし、誰かに言われたことだけに耳を傾けたりしないことだ。大切な人を見失ってしまうぞ」
「はい、お約束します!!」
「それでは話が早い!! アレクシスのことも人から聞いた話ではダメなんだ。エレノアには黙っておこうかと思ったのだが…… アレクシスから手紙が送られてきたんだ。近々ウェンスティール国へと来ることを許可して欲しいと……」
ーーアレクシスが……
「エレノアに会うためだけに、一国の王子が再び遠く離れた隣国へと来ることは相当大変なことなんだぞ!! 前倒しで膨大な政務をこなしているはずだ。エレノアにアレクシスを想う気持ちがあるのなら、会って素直な気持ちで向き合うことだ!!」
私に会いに来るって……嘘じゃなかった。
アレクシス……ごめんなさい。
私はアレクシスを想ってる……今も。
きちんと向き合わなければいけなかったの……なのに……私は……
私の本当の気持ちにお父様が気づかせてくれた。
「お父様…… ありがとうございます!!」
大きく手を広げ力いっぱい私はお父様に抱きついた。
お父様を勝手に疑って誤解し、遠ざけてきた。
だけどそんな私のことを一番理解してくれていたのはお父様だったのね
「なんだ照れるではないか~~!! エレノアに抱きつかれるなんて何年振りだろうか?」
「これからはお父様が嫌になるまで抱きついて差し上げますわ」
取り戻したいの……私のせいで失われてしまった親子の時間を……
「嫌になんかなるものか!! 私はエレノアが生まれてからずっと可愛い娘の虜だよ」
「お父様…… 大好きです!!」
ーーお父様もお兄様もお母様も皆大好きです。