ワケありニートな年下ワンコを飼いました
「彩女さん、こんばんは」

 バーのドアを開けると、カウンターから、マスターの武内涼介さんが声をかけてくれた。

 カウンター5席と2人掛けのテーブル席がふたつの、小さなお店。金曜日の夜だけど、もう閉店間際だからか、ほかにお客さんはいないみたい。

「こんばんは、マスター。閉店間際にすみません。いつもの、お願いできますか?」
「もちろん。彩女さんなら、いつでも大歓迎ですよ」

 棚からウイスキーのボトルを取り出しながら、マスターが微笑む。
 ここのスコッチウイスキーをロックでいただくのが、私の定番だった。

「なんだか、とても充実したお顔ですね」
「実は、大きな仕事がようやく片付いて。さっきまで、部下たちと打ち上げをしていたんです」
「あぁ、ずっと携わっていたっていうプロジェクトですか?」
「そうです。初めてリーダーを任されたので、いろいろと大変でしたけど……いい部下に恵まれて、無事に成功させられました」
「いい部下に恵まれたのは、彩女さんがこれまで頑張ってきたからでしょうね」

 マスターは、いつも優しい。多くを語らないけれど、ひと言ひと言に温かさを感じる。

 ちょうどひと回り年上なのにとても若々しいし、落ち着いた雰囲気と柔らかい声が魅力的。ほかにも複数の飲食店を経営していて、このお店はほとんど趣味でやっていると言っていた。
< 4 / 278 >

この作品をシェア

pagetop