ぼくらは群青を探している
「ま、小さい頃は朝から晩まで測ってたからな。侑生、よくこんなん覚えてたな」

「普通ねーだろ、こんなの」

「そりゃお前ン家のクソ綺麗な柱にこんな傷つけらんねーよ」


 んじゃはい、と桜井くんはティッシュ箱を雲雀くんに押し付け、柱に背を当てた。正面から見ていると間抜けなくらい姿勢がよくて笑ってしまう。


「一六三センチ……見た目通りチビだなあ、お前」

「え、でも伸びた! 四月から三センチ伸びた! これすごくね?」

「元がチビだからな。ほれ」

「……侑生、一六九!」

「桜井くん、ティッシュ箱斜め」

「……一七〇・五」

「で、三国は」


 そうだ、私が桜井くんの服を着るためにこのイベントが発生してるんだった……と慌てて雲雀くんと入れ替わる。ポスッと桜井くんの手によってティッシュ箱が私の頭上に載せられた。

 いつもよりほんの少し、桜井くんとの距離が近かった。


「三国、一五六センチかぁ。中学の時のシャツでよさそうだな」

「……そうだね」

「……つか……」


 雲雀くんが何かを言いかけて口を噤んだ。続きを促そうと目を合わせると、その視線は泳ぐ。


「……いや。とりあえず着替えてみればいんじゃね」

「んじゃ三国、はい。居間の隣、仏間だから」

「あ、うん、ありがと……」


 渡された制服のズボンにはベルトが通ったままなせいで、ガチャガチャと金属音がした。

 ……同級生男子の制服を着るのか。目の前に制服を出されてやっとその事実を現実のものとして認識し、なんだか緊張してきた。


「あ、覗かないから安心して」

「……それは雲雀くんが見張ってくれると思ってる」

「いやいやいや、侑生もフッツーに男だからね? 女なの顔だイタイッ」


 雲雀くんと雲雀くんに踏まれる桜井くんを横目に、そっと襖を開けて仏間を覗く。真っ暗だったので明かりをつけると、仏間とは反対の位置に小さな棚があり、その上に写真立てがいくつか並んでいた。

 襖を閉めながらそれに目をやると、一見して外国人の顔が見えた。桜井くんのお母さんの写真かな……と近寄ると、いくつかある写真立ての中心は三人組の家族写真で、まるで映画で見るような、金髪にグリーンの目をした美人な女性がいる。隣にいる男性はきっと桜井くんのお父さんだけど、お母さんと違って、どこにでもいそうなおじさんだった。その代わり写真だけでも全力でいいお父さんなのが伝わってくる。

 そして、真ん中にいる、おそらく小学生低学年の桜井くんは、栗色より明るい茶色い髪にくりんくりんの目をしていて、今よりもずっとハーフっぽかった。


「……すごく可愛い子役にいそう……」


 つい、写真立ての前に立ってじろじろと見てしまった。どうやら桜井くんの鼻の高さは幼少期から変わっていないらしく、高校生(いま)の顔ならそれほど違和感がないけれど、幼少期の顔ではそれが目立つ。本人は「ハーフっぽくなかった」なんて言ってたけど、これを見ると「きっとハーフ」としか思えない。

 ハーフっぽくなかったから変だって言われていじめられたなんて話してたけど、これを見るとモテるからいじめていたか、男子から見ても可愛くていじめてしまったかのどちらかな気がした。

 ……なんて、桜井家の家族写真を見ている場合ではない。手始めにティシャツを脱いで桜井くんのシャツを着ようとしたけれど、男女ではボタンの向きが逆で手間取った。次にズボンをはくと意外と桜井くんの足が長かった。

 鏡を見ないでも分かる。シャツはともかく、ズボンの丈が長い。


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