白雪姫は寵愛されている【完】
…人がいないだけでこんなに涼しくなるなんて。
スゥーっとする感じがした。
少しだけ風が頬に当たる。
だけど…冷たい風じゃない。
不自然な風だった。
木も揺らいでいない。
風もなさそう…なんだけど。
チラリと横を見ると、その風の正体が分かった。
「そ、そうたくん。大丈夫だから…」
「白藤!死ぬなぁあぁぁ!!」
必死に煽ぐ颯太くん。
両手にはうちわ。
全力で仰いでくれていいたのだ。
「颯太くん!大丈夫だから!止まって!」
「ぬぉおおぉぉ!………んあ?」
汗だくの颯太くんの手を掴み、止める事に成功。
仰ぐのに必死になり過ぎたのか、汗ばんでいる手。
汗でじんわりと身体がじめついているみたい。
「おお!白藤!無事か!?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
そういうと歯を見せて笑った。
颯太くんはずっとそうやって笑ってくれる。まるで真夏の太陽みたい。
…颯太くんと居ると更に暑く感じるのはきっと、太陽みたいだからかも。
ふぅ、と息を吐きハンカチで額の汗を拭った。
首筋に伝う汗が、ワイシャツの中に入って行く。
…少しだけ。
リボンを緩めてもいいかな。
四人共。シャツを捲ったり、ネクタイを緩めたりしている。
ワイシャツの中、気持ち悪いから。私もほんの少しだけ…。
シュル…、
リボンを緩め、一番上のボタンを取った。
髪を右側に流し首筋の汗を拭う─────、
「千雪、!」
ビクッ!
突然腕を掴まれた。
「じ、じんく…?」
な、何か私…変な事しましたか…?
「…駄目だ」
そう言うとボタンとリボンを直すよう指示された。何故かその時、全員の顔が赤く染まっているのは…暑さでやられたからだろうか。
そして、暫くして。
「よし!!決めた!!!」
颯太くんは勢いよく立ち上がる。
全員の視線が颯太くんに。
「海だ!海行こ!!」
「「「は?」」」
……え?
先輩達みたいにいきなり声は出なかったけど、心の中では声が出た。だって突然言い出すんだもの。吃驚して出ないよ。
「よーし!次の休み!海だぁ!!」
「さ、流石にもう冷たいんじゃないかな…?」
暑いとはいえ、もう夏は終わってるわけだし。温度差も激しそうだし…。
颯太くんは「チッチッチッ」と言いながら人差し指を左右に振った。
「俺ん家だ!!」
「……え?」
もっと分からないのですけれど…?