御話紡-短編集-
第一之話 月夜之櫻~皓と厘~
晴れた日の夜にしか咲かない桜。

雲一つ無い日、しかもたった一夜だけ咲いて、陽の光とともに散ってしまう桜。

季節と関係なく、満月の日にだけ咲く桜。

そんなおかしな桜の下で

皓は待ち合わせをしていた。

宵闇に染まる暗い闇の空の中、空にあるのは目映いばかりの黄金色に輝くまん丸い月だけ。

欠けるところのない月は、雲に遮られることもなくその淡い光を余すところなく地上へと注いでいる。

桜もその恩恵からはずれることなく光を受け、その花びら一つ一つを儚げに輝かせる。

桜自体が輝いて見えるそれは見事なものだった。

皓は桜の幹に背中を預け、今にも散りそうな満開の桜を見上げながら軽くため息をついた。

憂鬱なことや不安なことがあるわけではないが、何故かため息がもれてしまった。

理由は一つしかない。

「……待ち人、未だ来ず……か」

ぽつりと小さく呟く。

自分がこの場所に来てから、どのくらいの時間が経過したのかは分からないが、早く会いたいという気持ちが時間を長く感じさせているのかもしれない。

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