ミーコの願い事
 その日の夜。ノートを広げミーコとくつろいでいる時も、今日の充実した買い物品に満足感を味わっていました。
 お醤油がただで頂け、特にカップ麺やスナック菓子を安く購入出来たことは、私にとってとても嬉しい限りです。
 そんなことを考えながらもチラシを眺めていると、まだまだ購入したいものが沢山載っていました。

「あークッキーも購入すればよかった」

 チラシに書かれているクッキーの文字が目に入ると、私は食べたくなり、そんな言葉がもれていました。

「クッキー?」

 ミーコは残念がる私の言葉に反応し言いました。

「なんかね、クッキーを想像していたら食べたくなっちゃって」

「ミーコもクッキーが食べたい」

 ミーコは私の言葉を真似るように言います。

 あれ? ミーコはクッキーと言う名のお菓子の存在を認識しているのでしょうか? 疑問にも思いましたが私は食べさせてあげたいと思う気持ちから、自身の楽しみのようになっていました。

「ちょっと待っていて、確か森川さんのレシピに載っていたと思うから」

 今の私の想像と画力では丸い円盤にしか描けないと思いました。
 森川さんからコピーさせて頂いた、料理のレシピを取り出し、探し始めました。

「あったこれだ……あーやっぱすごいなー」
 
 森川さんの描いたクッキーは、多彩な形状で描かれていました。
 お皿の上を、飾るように丸や四角型に分け、表面に凹凸のあるものもあります。

 そこに柄模をつけるように色分けろしているので、私が頭の中で描いた 貧素なものとは次元が違いました。
 まるで家族や友人と楽しんで作ったかのように、温かみのある洋菓子が表現されています。

「流石だなー」

 私は森川さんのセンスに圧倒され、一旦描くのをためらってしまうほどです。
 頑張ってこのセンスをものにしよう。
 自分にそう言い聞かせ、違う紙に練習してから、ミーコのノートに描くことにしました。

 参考にしながら複写すると、なんとかクッキーに見えるので、今度はミーコのノートに描き写します。
 ミーコは描きあがると直ぐに食べ始めようとしたので、手を前に出しながらミーコの行動を止めていました。

「待ってミーコ。ゆっくり噛んでみて、硬いかもしれないから」

 ミーコは大きく口を開けたまま止まると、私のことを見ていました。
 そしてゆっくりクッキーを口に運ぶと、私のことを見続けたまま一口噛みました。

「サクッ」

 柔らかく、砕ける良い音がします。

「おいしー」

 ミーコはクッキーを持つ逆の手を、頬に当て喜んでいます。
 満面な笑顔です。
 そんな光景を見ていたら、余計にクッキーが食べたくなります。

「戸棚の中になかったかな、探してみよう」

 私は台所にある茶だんすの下に設置された、戸棚部分を探し始めました。
 入り口付近には有りませんでしたが、そこには社長からいただいた瓦せんべいが二枚置いてありました。

 帰宅してから瓦せんべいは茶だんすに、専務から頂いた紙袋はそのまま冷蔵庫にしまっていたことを忘れていました。
 クッキーではありませんでしたが、同じ焼き菓子です。
 強引ではありますが、私は喜び瓦せんべいを一口食べました。

「おいしー」

 繊細な甘味が、口の中を満足させます。
 瓦せんべいが出てきたことで、喜び部屋に戻ると、ミーコは私の食べる形状の違うお菓子に興味を持ったのか、食べるのを止め見つめています。

「それなーに」

「これ? 瓦せんべいて言うお菓子、ミーコも食べてみる?」

 ミーコは手に持つクッキーと私の持つ瓦せんべいを交互に見た後、元気な言葉を返します。

「うん、食べたい」

 私はクッキー同様他の紙で練習をしてから、ノートに描きました。
 描き上がるとまた直ぐに食べようとしたので、手を前に出しながらミーコの行動を止めていました。

「待ってミーコ。ゆっくり噛んでみて、硬いかもしれないから」

 ミーコはクッキーの時のように大きく口を開けたまま、私のことを見ていました。
 そしてゆっくり口に運ぶと、一口噛みます。

「ポリッ」

 クッキーに負けていない、良い音がします。

「おいしー」

 ミーコは手のひらを頬に当て、喜んでいます。
 そして目をつむり、うっとりした表情も浮かべています。

「ミーコどんな味? 甘い?」

 興味がわき、たずねてみると。

「あま〜い瓦みたーい」

 少しトンチンカンな回答が、帰ってきました。 
 クッキーは食べられなかったけど、やっぱり瓦せんべいもおいしい。 

 クッキーはまた明日にでもスーパーに寄って買えばいいかなっと、私はお菓子のことは自分の中で完結させました。
 それにしても改めて見る森川さんの絵のセンスは、飛び抜けているように感じます。
 私も、もっと練習して少しでも近づきたい。

 そんな前向きな気持ちを持ちながら、喜こんでいるミーコに目を移しました。
 ノートの中では、ミーコがクッキー持ったまま、睨むように私の顔を見ています。
 突然、頭で描いてたことと、違う行動していることに身体をびくつかせました。
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