ミーコの願い事
 確認をするため森川さんを見ると、何やら探し物をしているようでした。
 何か落としたのかな? 先ほどのペンのことかな? 
 床に手をつき、棚の下を覗き込んでいます。

 そのことが視界に入ると、声がかけられなくなってしまい時計はそっと棚の上に置いとくことにしました。
 すべての確認が終了した頃でしょうか、先ほどの置時計のことを思い出し戻りました。
 
 その隣には寄りかかるように、一冊のノートが立てかけてあります。
 見落とすのには、不自然なぐらい存在感があります。
 そのノートは全体が黒く厚みがあり、やや大きめのノート。

 外観から当初は書物だと思ったのですが、中を開くと何も記載されていませんでした。
 表紙にも記載なく、ただ背表紙の下部分に星型で白色のお花の絵が描いてあります。
 描かれたお花は、挨拶をしたような錯覚を見せます。

「あっ昨日見たお花に似てる。偶然? それともあなたも逃げてきたのかな?」
 
 一瞬そんな冗談を呟き、微笑んでいました。
 妙なデザインで、印の位置がおかしいとも思いましたが、しっかりした作りと持ち運ぶのにちょうど良い大きさに、心惹かれていました。
 
 このノートで出掛け先をスケッチする、そんな妄想すらしてしまうほどです。

「田中さんどうしたの?」

 手にとり見とれていると、森川さんが近づいてきます。
 先ほどの微笑みをかくすと、無言のままノートを差し出しました。

「へー何の本」

 
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