転生聖職者の楽しい過ごし方【閑話集】

ご立腹アデライト




 レオナールは執務室で、手紙を読んでいた。

「王妃様からの手紙か?」

 レオナールはクロヴィスの問いには答えなかった。

「どうした?向こうで何かあったのか?」
「リオからの手紙だが、ウルバーノが…マルゲリットとヴィットーリオ王子との縁組みをさせたいと舞踏会の立ち話でしたようだ。」
「ヴィットーリオ王子とは…第二王子だろう?」
「あぁ。そうだ。」
「あの国も本当に…大方、二人の強い魔力を持つ子は欲しいが、異世界の血を王族には入れたくないから、側妃から生まれた第二王子と縁組みをさせるって事だろ?」

 そこへ、アデライトが来たのと声かけがあった。二人は顔を見合わせる。

「入って頂け。」

 クロヴィスが返事をすると、扉は勢いよく開き、鬼のような形相のアデライトが入って来た。
 そのあまりの憤怒の形相に二人は思わず黙った。

「レオナール。今すぐエシタリシテソージャへ兵を送りなさい。」
「はい?何があったのですか?王太后。」
「王妃から手紙が届いたのです。ウルバーノがマルゲリットとの縁組みを…しかも第二王子。聞けば、第二王子は側妃との間に生まれ、あの国では王位の継承権すら与えられていないとか。」

 扇子を自らの手のひらに力一杯叩きつける。レオナールは痛くないのかと心配になった。

「その話しなら、リオが断わったと書いてありませんでしたか?」
「書いてありました。しかし、王妃のあの物腰の柔らかな物言いでは、あの国はこの舐めた態度を改めないでしょう。この世の中で一番美しく賢いマルゲリットを第二王子の妃など。私たちを侮るにも程があります。フロベール家の私兵も加勢させますから・・」
「王太后様、落ち着いて下さい。」

 クロヴィスは、取りあえず腰掛けるように促す。

「リオ陛下はああ見えても、物腰の柔らかいだけの女性ではありません。ウルバーノ殿下へはきちんとお断りをしたはずですから。」

 レオナールはアデライトのあまりの剣幕に、驚きなどを通り越して、笑いがこみ上げてきた。

「レオナール。何を笑っているのです。笑っている場合ではありません。マルゲリットが幸せになれないような縁組みは私が絶対に許しませんからね。そして、マルゲリットを、心根の優しい王妃を舐めきっているあのウルバーノを許しませんから。」
「母上。大丈夫です。私もリオもあの国に娘を嫁がせるつもりなどありませんよ。マルゲリットには私たちのように愛し合う相手と縁組みして欲しいと思っています。ご安心下さい。それと、こんなことで流石に兵を出すわけにはいきません。ご理解下さい。」

 アデライトは、はぁーっとため息を吐いた。

「では、マルゲリットとルイの顔を見てから帰る事にします。」
「はい。」

 レオナールは立ち上がったアデライトを呼び止めた。

「いつも、子供たちを気にかけて下さり、ありがとうございます。母上。」

 アデライトは、少し笑って、部屋を出て行った。
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