桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
25

その週の週末、土曜日、俊はいつも通り8時頃起きてきた。

私が朝食を作っていると、いつものように手伝ってくれた。
娘の食事の補助をふたりで代わる代わる手伝いながら食事をする。


最近では夫婦の会話がほとんどない。

以前は話したいことが山ほどあって俊の休日が待ち遠しくて
たまらなかったというのに。

今では休日になるのが嫌でたまらない。

だけど、今日は違った。
話すべき話題があるので少しだけ気持ちが軽い。


「俊、これから毎週日曜の15時~20時までアルバイトすることにしたから
奈々子のことみててほしいんだけど……どうかな」

「いいよ、桃が帰るまで奈々子と留守番してるよ」

「ほんと? ありがと」

なにもなかった頃の私ならば『お願いします』の一言を絶対言ったはず。
でも今日は……今回は……言わなかった。

意図的に。



「なんの仕事? どこまで行くの?」やっぱり訊かれた。
そりゃあ、普通訊くよね。

私は前もって準備していたセリフを繰り出した。


「受付。デッサン教室の受付なの」

「デッサンって、アレ……絵を描いたりするところだよね」

「うん、そう」

「出勤時間遅くていいんだ?」

「うん、二交代制になってるから」

「奈々子が生まれてからずっと家ばかりだったから、気晴らしにいいかもね」

「うんそうだね」

「桃のいない時間、責任重大だな。
奈々子に怪我させないようにしないとな」



何も知らない夫は、上手く子守ができるかどうかの心配をしている。
奥さんはストリップダンサー気分でお仕事に行くってぇ~のに。

おかしっ。ふふっ。
そんな俊の呑気な様子を見るのも少し留飲が下がる。


でも……この先ずっとこんな気持ちで自分の夫に向き合っていくのかと思うと
我ながらおぞましやと思う。

そんなこんなで下げた留飲もすぐに胸の中から消えてしまった。



『駄目だよ桃、ちょっとの後ろ向きな考えもだめ。捨てるのよ!』

桃美の言葉が頭に入ってきた。


『そうでした、前向きに行くって……自分を守るって……決めたんだものね』

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